比嘉 長編 初恋の人 (木手永四郎)
君の名は?
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『花 』
静まり返った部屋に虚しく消えて行く君の名前、懐かしさと切なさを押し殺してベッドから立ち上がった。
時計に目をやると3時間も寝ていた様だ
久しぶりに眠れた気がした。
熱いシャワーを浴びて、やり残した仕事に手を付ける。
カタカタとキーボードに指を滑らせながらも夢の中の花の笑顔が頭の隅にチラつく
もう一度あの日に戻れたら……
『あれから何年たったと思って……はぁ……』
取り戻す事が出来ない時間に為す術なく、現実に流れる時間は退屈に思えた。
何もしなかった訳じゃない、SNSで彼女の名前を検索してみたりした。
近況だけでも知りたくて、でも見つける事が出来なかった。
住んでいた家にも行ってみたが、売りに出ていた。
探偵を使っても良かったのだが、そもそも連絡が来なくなってそのまま自然消滅した過去、いつの間にか嫌われていたのだとしたら探偵まで雇って会いに行ったら、もう立派なストーカーでしかない。
高校までは何の問題も無かった筈だ、年に数回俺が会いに行き、決まって大人になったらと約束した。
俺は大学に進学し、1年経って花の進学が決まる頃
俺達の恋は予想もつかない方向へと向かって行った
「永四郎……お父さんが海外に転勤になっちゃった。」
『え?……海外……』
「うん、大学はそっちに行きなさいって……私は日本に残るって言ったんだけど……っ……」
『……行かなきゃいけないんですね。』
「離れたくない……これ以上、永四郎と……もっと遠くなっちゃったら……っ」
『……俺が必ず迎えに行きます。だから、花……大丈夫です。』
「……グスッ……っ…んとに?ホントに迎えに来る?っ……」
『はい。必ず、約束します。』
「うん……」
『だから、泣かないで……俺を信じるでしょ?』
「うん…信じるっ……」
約束した筈だった。
見送りも出来ないまま彼女は海外に旅立ち、住む所が決まったら手紙を書くと約束したが、その知らせが届く事は無かった。
いつか連絡が来る筈と待っていたが、1年が経っても彼女の居所は分からなかった。
分からないまま、不運は重なる。
自分の家も引っ越す事になったのだ、
子供にはどうにもならない大人の都合。
俺たちの初恋は大人の事情に引き離されて消滅した。
花 が今海外にいるのか、日本に戻って来ているのかさえ分からない。
あれから11年……
もうとっくに過去の思い出の筈なのに