比嘉 長編 初恋の人 (木手永四郎)
君の名は?
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『花…好きですよ。』
優しい永四郎の声が脳に響く
大きな手で頬を包んで
額に落とされるキスは照れ臭いけど特別だった。
同年代のお馬鹿な男子とは違う、手を繋ぐにも戸惑いなんて微塵も見せない、冷やかされても照れない、好きだと言葉にしてくれる所も好きだった。
理想だったのに、なんで終わってしまったんだろう。
ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……
あぁ…… また朝が来た
頭がぼーっとしてまだ夢感覚が抜けない
永四郎の声がまだ耳に残ってるみたいだった。
いつもと同じ一日が始まる。
「雨…」
憂鬱な雨も夢のお陰で少しニヤける
スコールに打たれたあの時の永四郎もかっこよかったな……なんて
夢に浮かされて遠い駅への道のりが今日は少しだけ楽しかった。
人生で1番ドキドキした恋だった
何もかもが初めての恋だった
どんな終わり方をしたかなんて今は思い出したくない
あの日に戻れたらいいのに
今日は現実逃避が止まりそうにない。
午後一の会議に使う書類をコピーしながら永四郎と過ごした時間の断片を記憶から引っ張り出す
男『山田さん、なんかいい事でもあったんですか?』
職場でニヤついて居たのが同僚にバレてしまった。
「ううん、別になんにもないよ」
男『まさか新しい彼氏ですか?』
「違うってば」
軽く否定して横をすり抜けた
ちょっと浮かれすぎだと反省しつつ、息を吐いて顔を引き締めた。
男『俺とのご飯、何時になったら…』
背中越しに何か聞こえた気がしたけど、聞こえない振りをしてデスクに急いだ。
ごめんね同僚、今はご飯所じゃ無いんだよね、もう少しだけ浸らせて……。
午後の会議も絶好調!
残業無しで帰宅なんて久しぶり
まだ降り続いている雨の冷たさも苦にならない。
最寄り駅に着くと何となく何時もとは違う道へ足を向けた。
この先に早く閉まっちゃう美味しいお弁当屋さんがあった筈、いつもは残業で閉店時間に間に合わないから滅多に食べられない。
あの店のトンカツ美味しいんだよな〜
人間気の持ちようとはよく言ったもんで、昨日の帰り道とは違って幸せな自分がいた。
夢に浮かされただけなのに
パパパッ!!!
クラクションの音が鳴り響く、
黒塗りの高級車が横をすり抜けてく、ついでに水溜まりの水を私に掛けて走り去って行った。
「最悪っ……」
あぁ、浮かれ気分も半減
一気に現実の虚しい29歳独身女に引き戻された。
とぼとぼ歩いて目指した滅多に寄れないお弁当屋さんの前へ
【定休日】
はぁ……ついてないな……
人生は甘くない。