比嘉 長編 初恋の人 (木手永四郎)
君の名は?
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『会社の前にいますから…』
21時、予定通りの帰宅時間に合わせて電話が鳴った。
優しい声に浮かれ散らかしながら小走りに正面玄関を出る、辺りを見渡すと目の前に黒い車が滑り込んで来て後部座席のドアが開いた。
中から黒いスーツの永四郎が降りて来て早くおいでと手招きする
『おかえりなさい。お疲れ様』
「ただいま。」
後部座席に乗り込むと優しく響く声に包まれて疲れも消えて行く、なんて幸せなんだろう、好きな人におかえりなさいと言って貰えるこの瞬間が堪らない。
静かに走り出した車はいつの間にか高速に乗りスピードを上げて帰る方向とは離れて行く。
「永四郎……どこ行くの?」
『秘密です。お腹すきましたが?』
「少し」
『少しだけ我慢して下さい』
「うん。あのね、今日仕事辞めるって言って来たよ、今出てるシフト終わったら有休消化に入る。」
『分かりました。共通の予定アプリでも入れましょうかね。お互い動きが分かれば安心でしょ?』
「うん。」
甲斐君が用意しておいてくれた珈琲を飲みながら2人でアプリを起動する。
今後の予定をお互いに打ち込み始めるが永四郎の休みの無さに驚く、丸一日何も無い日は殆ど無く必ず何かしらかの予定がある様だ。
「永四郎……忙しいね…」
『大丈夫です、社長代理が出来ましたから任せられる様になれば、旅行にも行けます。暫く辛抱して下さいね』
「うん、代理って…」
『花も知ってる人ですよ』
「知ってる人……?」
『えぇ、その内会うでしょうね…』
「誰だろ…」
やけに今日は静かにしてる甲斐君を指差すと、永四郎は静かに首を横に振った。
40分程走った車が高速を降りて川沿いを走る、懐かしい風景が流れて行く、
あの時は皆と電車で来たっけ…
丁度今ぐらいの時期だった、はしゃぎ過ぎて帰りは足が痛くなって電車の中で立ってられなくなった。
永四郎はあまりはしゃぐからですよと困った顔をしながら支えてくれて、ホテルに着いてから足をマッサージしてくれた。
懐かしい様で昨日の事みたいに思い出せるよ。
閉園時間が過ぎたパークは静まり返っていて、賑やかさはない。
正面入口に横付けされた車から降りて永四郎の手を取り歩き出す
『少しだけ散歩しましょう』
ライトアップされたままのアーケードを抜け真っ直ぐに城へと向かった。
すれ違うキャストさんが、行ってらっしゃいと手を振ってくれた。
音のないパークは初めてで、お店も全てCLOSEしている
城を見上げて皆で写真を撮った事を思い出す
「懐かしいね、永四郎…」
『えぇ…写真でも撮りましょうかね』
昔と同じ場所で11年越しの記念写真。また来ようねって約束してから1度も来れなかった。 また来れるなんて…
いつからか諦めてた。
嬉しくて…涙が出そうだよ永四郎……
『花あの時は無かった所に行きませんか?』
「無かったとこ?」
『えぇ……君が一番好きなのは?』
「…………あっ」
あの時は無かったエリア。
『さ、行きますよ』
手を繋いで早歩きで向かう
新エリアが出来たのは知っていたけれど、思い出の場所に来るのは辛くて足が遠のいていた。
ピンク色の大きな城に辿り着く
息を呑む程綺麗で、大好きなお話の中に来れたみたいでワクワクが止まらない
入口から続く橋には薄らと霧が立ち、滝の音がする。
「凄い綺麗…」
『行きましょう』
「え?入れるの?」
ぐっと手を引かれ戸惑いながら通路を進む、城の中は映画の世界観そのままで、少し怖くて永四郎の手をぎゅっと握り締めた。
音楽が小さく流れていて、暖炉の前を通りホールへ抜けた
階段の上にはステンドグラスの薔薇
ホールの中央まで進むとシャンデリアの灯りが優しく照らされていた
大好きな音楽が流れ始めると閉まっていた奥の扉が開いた。
素敵過ぎる室内、気分は最高!
誰も居ない貸し切りのお城
出迎えてくれたキャストさんに促され大きなカップに乗り込む。
ふわふわと揺れながら進むカップが大好きなお話を見せてくれる、ダンスでも踊っている様に優雅に揺れながら、永四郎の肩に頭を預けて流れる景色に酔いしれた
ラストのダンスフロアは映画そのもので、もうここで止まってしまえばいいのにって思うくらい… 素敵過ぎて…
ゆっくりとカップが動きを停める
「え……止まっ……た?」
音楽は流れたまま…
『花降りますよ…』
「え……?降りる?」
フワリと結構な高さのカップから降りた永四郎が、手を差し伸べる。
その手を取ると軽々と私を抱き降ろし、窓側へと連れて行く…
ゴールドの格子が施されたガラスのドアを押し開くと半円のバルコニーへと続く、リアルな石造りの向こう側には、歩いて来た街並みが少し遠くに見えた。
「……綺麗…普通は見れないよね…ここ」
『えぇ……』
「永四郎…ありがとう……凄い、綺麗」
『花… 君が見た事のない世界を俺がいくらでも見せてあげます。だから、ずっと傍に居なさいよ……』
景色に見惚れたままの私を後ろから抱き締めて優しく傍に居なさいと言うと、箱が目の前で開かれた。
見たことも無い大きさの宝石に、声が出ない、吸い込まれそうな程輝くダイヤモンドに驚き過ぎて手に取るのも怖いくらいに美しい。
『花……二度と君を離さないから…… 』
そう言って指輪を取り出すと私の左手薬指にそっと着けてくれた
涙でキラキラがもっとキラキラしちゃうよ……
振り返ると優しいキスが額に降りてくる
『愛してます。』
「……うん。私も…」
ドキドキし過ぎてこのまま心臓が止まってしまうかと思うくらい
夢見たいな事ばかりが雪崩の様に降って来てもうどうしていいか分からないよ
同意するのが精一杯で、ちゃんと気持ちを伝えたいのに涙があふれるし、声は出ないし、手は震えちゃうし…
幸せ過ぎて怖くなるよ永四郎。
『ディナーに行きましょう。』
いつの間に手にしたのか真っ赤な薔薇の大きな花束を差し出されて止まりかけてた涙がまたじわじわ込み上げる。
『いつも何が欲しいか電話で聞くと薔薇の花って言ってましたね…ククッ…』
「覚えててくれたんだ……っ…ありがとう……嬉しい……っ」
『君が傍に居てくれるなら俺は野獣のままでも構いません。』
「野獣のままの方が大好き♡」
『君は野獣推しでしたね…』
にっこり、笑ってエスコートしてくれる永四郎と秘密の通路を抜けて、これまた秘密のレストランで素敵なディナーを楽しんだ。
デザートのケーキを食べながら大きすぎるダイヤモンドを眺める。
大き過ぎてぶつけちゃったらどうしよう…
なくしちゃったら…
高価すぎるそれを身に付けている事が少し怖くなって、永四郎に視線を移す。
「永四郎……あのね…」
『簡単に壊れたりしませんよ…』
私を見透かした様な返事に驚くと目の前にもう1つの箱が置かれた。
『普段使い用です。結婚指輪は2人で選びましょうね』
箱を開くと同じデザインの指輪が光る
嬉しくてぎゅっと箱を握り締めた。
「永四郎……金庫買ってね、絶対盗まれない奴!!」
『はいはい。大きなのを買いましょうね、一生分の石が入る奴を…』
おもちゃ箱でも買うようにクスリと笑った永四郎は先は長いと言いたげに目を細めて少しほっとした様子だった。
「世界一幸せ、ずっと永四郎と居られるんだね…」
『俺も世界一の幸せ者です。やっと君を手に入れた』
永遠にこの幸せが続きます様に…