比嘉 長編 初恋の人 (木手永四郎)
君の名は?
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与えられた部屋は10畳程
ウォークインクローゼットは広すぎて半分も埋まらない、その隣のドアを開けると、海外製の洗面台にトイレ、黒の格子ガラスで仕切られたシャワーブース、奥に卵型の浴槽。 壁には大きめのモニターが埋め込まれている。
断捨離した荷物は全て収まった。
まだ現実に起きている事に困惑している自分もいる
大人の永四郎の振る舞いに少し戸惑う事もある
『花 …手伝いましょうか?』
「ううん……大丈夫。」
『じゃぁここで見てますね…』
リビングから拝借して来たソファに座ってじっと私を見てる永四郎にドキッとしながら、小物を仕舞っていく
そばにあった段ボールを覗いた永四郎…
『花……これは……』
「ん?……あ、ダメっ!!それは!!」
宛先不明で戻って来るようになった永四郎への手紙の束……
いつかは届くかもしれないと送り続けた手紙、
『書いてくれてたんですね…』
「最初の1年は戻って来たりしなかったんだけど、1年経ったら宛先不明で戻って来る様になっちゃって……最初の1年の手紙……届いてた?」
『……はぁ……そんな事が……届いてません。一通も……てっきり俺は君に嫌われたと思って……』
「一通も?……そっか……あのね、私1年半ぐらいした時、沖縄に行ったの。」
『……本当に?……沖縄に?』
「うん、会いたくて……でも家には知らない人が住んでて、大学にも行ったんだけど在籍してないって言われて……」
『そんな……はぁ……俺の家も引っ越す事になって沖縄を出ました。大学もそれで編入したんです……甲斐君や平古場君の連絡先を教えておくべきでした。俺のミスです。』
「……嫌われたと思ってた。」
『そんな事、ある訳ないでしょ…俺はずっと花 だけを……』
「………もう二度と会えないかと思ってた……」
『それ……読ませて下さい……』
「ダメっ、もう何書いたか覚えてないし……」
『俺の為に書いてくれたんでしょ?』
「……」
『君がどんな気持ちだったか……知りたいんです。』
眉を下げてお願いだからと手紙を奪われた。 何を書いたか覚えてないけれど、
きっと私の事だから会いたいとか、早く迎えに来て欲しいとか、恥ずかしいセリフを並べているに違いない。
耐えられなくて、背を向けて荷物の片付けを続ける、空になった段ボールを解体しながら、ゆっくり次の段ボールを開けていく。
背中越しに封筒を破き便箋を開く紙音がする
恥ずかし過ぎる……
1時間程永四郎は無言で手紙を読んでいた。
全ての段ボールを開け終えた。
窓の外はもう日が沈み始めている
『花…っ……』
最後の手紙を握りしめた永四郎が私の手を引いて抱き寄せた。
「永四郎…?」
『花…っ……辛い思いをさせてすみませんでした。こんなにも……君は俺を思っていてくれた……俺はもっと君を探すべきでした。迎えに行くと約束したのに……っ…俺は……っ…』
「……永四郎…」
『花… 』
腕を緩めて私の両手を優しく握った永四郎がゆっくりと跪いた。
『必ず幸せにします。俺と結婚してくれませんか?』
「……っ………はいっ。」
目の前が滲んでこんなにも素敵な瞬間がボヤけちゃう。
こんなにも幸せでいいのかな……
怖くなる程幸せ過ぎる。
すれ違っていた思いがやっと叶ったんだ。