比嘉 長編 初恋の人 (木手永四郎)
君の名は?
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立っていられない程にキツく抱き締められたまま息をするのも忘れていた。
頭の中が真っ白で声も出せない、まだ現実だと思えない、我に返ったら消えてしまうんじゃないかと怖くてたまらなかった。
『花…っ……』
ゆっくりと腕が緩んでいく、少し屈んで目を合わせた永四郎は昔と同じ仕草で私の額に優しく口付けた。
別れ際の空港、泣き出しそうな私にいつもそうしてくれた様に…
止まった時計の針が動き出した気がした、
辛かった時間が溶けていく、聞きたい事、聞いて欲しい事が沢山ある筈なのに
声にならない。
降り始めた雪は辺りを白くし始めていた
『…………』
額から離れた永四郎の冷たい唇は何も話すことは無く、永四郎は私の手を引いた、
ぎゅっと繋がれた手は昔より少し固くて大きい気がする。
歩幅の大きさに小走りになりながら着いて行くと路肩にハザードを焚いた黒塗りの高級車が停まっていて、永四郎は後部座席に私を押し込んだ。
奥に押し込まれ革張りの席に小さく座ると懐かしいもう1人の声が前から聞こえた。
甲『おーーじゅんに花やっしー!元気だったかー?』
「甲斐くんっ!!!!?」
甲『久しぶりさー!懐かしいなー!!』
木『いいから、出しなさいよ』
甲『へいへい』
永四郎は少し怖い顔をしながら腕を伸ばし私側のシートベルトを引っ張った、近くなった目線が合うと少し笑ってカチリと金具を押し込んだ。
自分もシートベルトを止めると、右手が私の左手を包んだ。
甲『永四郎、家でいいんば?』
永『ええ…。』
窓の外に流れる景色がいつもよりぼやけて見える。 夢じゃないんだ、解き放たれた心がもうどうしようもなくて、涙が止まらなくて、窓の外ばかり眺めている。
泣き顔なんて見せたくないのに、指で涙を拭うけれどしばらく止まりそうにない。
握られた手がゆっくり永四郎の方に引かれて望まれるままに指を絡めた。
何か言いたげに強く握られる指、涙を拭いて永四郎の方を見ると、永四郎は窓の外に視線を投げたまま、左手が口元に添えられている。
窓に映りこんだ永四郎は泣いている様に見えて、胸がぎゅっと苦しくなった。
私もまた窓の外に視線を移すと何処に向かっているのか知らない景色をまたぼやかした。
そうしてるうちに車は静かにマンションのエントランスに滑り込んだ。