眩しい笑顔
4 【日中の後光】
あれから、1年が経った。俺たちは高校2年生になっていた。
日中は変わらず、いつ見ても格好いい。
「小花、おはよう」
目が細められて、口元に白い歯がのぞく。カーテンを引いてくれたのだろう、日中は朝の日差しを背負っている。
後光ってこういうのを言うのか。すごく眩しくて、俺は目を細めた。
「おはよう、日中」
「よく寝られた?」
「うん、寝すぎた」
ふふっと笑われる。
「じゃ、下で待ってるね」
日中はポンと俺の頭に手を置いてから、部屋を出ていく。
日中にしてみれば、大したことじゃないかもしれないが、日中大好きな俺とすれば、喜びしかない。
――頭をポンされたー!
額を両手で押さえて、もだえた。
絶対これは、百合本に自慢しなくちゃならない。「何で、あんたばっかり」とか言って、めちゃくちゃ、うらやましがられるだろう。
それに、今日は珍しく頭がはっきりしている。ずっと、日の光に包まれた日中の笑顔を見たかったから、めちゃくちゃ嬉しい。
――予想以上に良かったー!
ベッドの上でゴロゴロしていたら、勢い余って壁に頭をぶつけた。
痛いけども、熱くなっていた頭が冷静になってきた。何やっているんだろう、俺。しかも。
――日中を待たせてるんだった。
落ち着きを取り戻した俺は、寝間着を脱ぎ捨てて、シャツとスラックスを身にまとった。ブレザーを羽織って完成。
端から見ても、おれと日中とでは比較にもならない。日中は本当に俺と同じブレザーを着ているのかと思うくらいに、華麗に着こなしていた。
生まれもってイケメンの才能を持っているんだろう。うらやましいというよりかは、おれに拝ませてくれてありがとうだけど。
そんな日中を待たせているなんて、俺は本当にダメなやつだ。
一階に降りて、朝食を腹に入れているときも、日中はわざわざ隣に座って俺を待っていた。
「なあ、見られてると食いづらい」
食パンをはむはむしているところを見られるのは、辛いものがある。何か知らないけど、母さんもこちらをちらちら見てくるし。
「ごめん、何か頬をふくらませて食べてるの可愛くて」
「可愛いって何だよ」
小動物みたいな表現してきて、恥ずかしすぎる。俺なんかに言ったって、何の腹の足しにもならないだろうに。
「そのままの意味だけどね」
「何だそれ」
全然、わからない。これ以上、わけわからないことを言われないように、顔をそむけて食べた。
日中は「あれ、そっち向いちゃうの?」と、なぜか残念がっていた。
家を出れば、少しずつ冬が近づいていて、マフラーがないとちょっと寒い。そろそろ手袋も出番かもしれない。
日中と学校までの道のりを歩く。
今日は頭ポンで目が覚めているから、日中の肩にもたれなくても大丈夫だった。俺だってやればできる。
共通の好きなマンガやゲームの話をしていたら、日中は「今日は、寝ぼけてないんだね」と聞いてきた。
「うん、頭をポンされたら嬉しくて、完全に起きた」
「嬉しい。そう、なんだ」
日中は顔を強ばらせて、歯切れ悪く答える。
「明日も頭をポンしてくれるか?」
「え、いや、それやったら、起きちゃうんでしょ?」
「うん」
「“たまに”がいいんじゃないかな? いつもやったら、嬉しさも半減しちゃうよ」
「あー、そうだな」
確かに“たまに”だから、こんなに嬉しくて目が覚めたのかも。毎日になったら、慣れてきて嬉しさを感じなくなるかもしれない。それじゃあ、日中に悪いか。
納得して、話が終わったところで、日中は足を止めてしまった。
「ん、どうした?」と、たずねてみても、「何でもないよ」と笑う。何か言いたそうに見えたけど、俺の気のせいだったのかもしれない。