学園テーマパーク

【第五話】


世間の景気が上向きになりつつあっても、この学園テーマパークには関係なかった。
もはや「不景気だから」という言い訳も通じない。環境のせいではなく、結局のところテーマパーク自体に問題があるのだ。

腐女子ツアーをはじめたものの、一向に客足は伸びなかった。
その理由はどうやらトモヤスの演技力ではなく、もっと根本的に足りないものがあるのだろう。

腐女子の心を掴むにはどうしたらよいのか、コウセイはいつも考えている。

今日もモップを手に廊下にワックスをかけながら考えこんでいると、後ろから「コウセイ」と呼ばれた。
聞き慣れた声にモップの手を止めて後ろを振り向こうとした。
だが、振り向く前に、いきおいよく背中に飛び付かれた。
首に腕を回され、耳元で「ねえ、聞いてよ」と擦れた声でささやかれる。

「何だ、トモヤス」どもりがちではあったが何とか声が出せた。そんな自分にコウセイは安心する。

「おれさ、考えたんだけど、腐女子のみなさんに楽しんでもらう方法」

まさに今、自分が知りたいことだった。コウセイはもう一度振り向こうとした。
そのはずだったが、顔を横に向けた瞬間、トモヤスの唇が重なる。
一、二秒ほどの短い間だったが、コウセイを真っ赤にさせるのは十分らしい。
コウセイは唇をわなわな震わせて「ふざけんな」とつぶやいた。

「ふざけてないよ。おれさ、マジでいい方法を考えたんだ。ちょっとこっちにきて?」

「仕事中だ」

「すぐ終わるからさー、ねー」

トモヤスの腕を払いのけようとしても、コウセイを掴む力は思いの外強い。
その力の差が男として負けた気持ちになる。「仕方ねえな」と強がるのがコウセイのせめてもの抵抗だった。
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