甘くない話
4 【夏休みの予定】
夏休みに入るちょっと前のこと。生徒会室で会長とおれが二人きりになるという奇跡が起きた。
会長とおれをのぞく生徒会のみんなは、他に予定が入ったらしい。
詳細はよくわからないけど、会長も納得していたので嘘ではないのだろう。
というわけで会長とおれは、絶賛仕事中だ。
書類やパソコンの画面と向き合い、目が疲れたところで、ちょっと休憩を入れることにした。
「会長、休憩を入れませんか?」
会長に提案してみると、「ああ、そうするか」と返ってきた。眉間を指で押さえて、会長も目が疲れたらしい。
「夏休みですねー」
「ああ」
今日は何だか、会長の言葉が短い。いつもならもっと聞かなくたって話してくるのに。
おれのほうが会話をつなげようと必死になっている。
「夏休みのご予定は?」
「実家に帰る」
やっぱり、会長はおれを見ようとすらしてくれない。すごくムカつく。
でも、あきらめない。
「他に友達とどこかに行ったりは?」
「するかもな。でも、まだ決まっていない」
会長は机に頬杖をついて、窓の方向に顔をそらした。もしかして、残念な人だから友達も少ないのかもしれない。何だか、かわいそうだ。
「それなら」
会長の後頭部を見ながら話す。
「おれとどこかに行きませんか?」
言った瞬間、会長の首がぐるりと回転した。おれに見せたのは、目と口が開いた間抜けな面だった。
「その、おれとお前が? 二人きりか?」
食い付き具合がハンパなかった。だんだん身を乗り出してくるので、ちょっと恐い。
「二人きり」と言った覚えはないけど、気が付いたら「そうです」とうなずいていた。
「会長、もしかして、うれしいんですか?」
「うれしいわけがねえだろ!」
それでは何で、口元がゆるんでいるのか。「デートか、そうか」とつぶやいているのか。
誘われたのがうれしいにしても、ちょっとリアクションが過剰すぎる。
だけど、そっけない会長よりも数倍おもしろいのは確かだ。
おれはしばらく観察することにした。
〈おわり〉