学園テーマパーク
【第四話】
案の定、扉を開けば、俺様会長ではなくなったただのトモヤスが立っていた。
ブレザーをはぎとれば、年相応の大人に戻る。
トモヤスはコウセイと同じ歳だった。
「入れよ」
部屋のなかに招くだけでも緊張するコウセイは、早めに背中を向けた。
二人が腰を落ち着かせたとき、
「何か言いたいことでもあるのか?」
コウセイは促した。トモヤスはこくりと顎を服につける。
いつもならば、コウセイが促さずともべらべらしゃべるのに、今の彼には難しいようだ。
意気消沈したトモヤスの扱いは面倒だった。
「早く言え」
「ごめんなさい」
昼間の一件に対して謝っているのだと、コウセイにはすぐにピンときた。
「何がだ」
それでも、コウセイは察したくなかった。あくまでもトモヤスの言葉を待った。
「キスしちゃったこと」
「本当だ。役作りにもほどがある」
コウセイは自分のいいように解釈をした。反対に、トモヤスは先程のしおらしさとうって変わって、「はあ?」と大声を上げた。
「あれが役作りなんて本気で言ってんの? だれが好きでもないやつの唇を奪うかよ!」
声を荒げるトモヤスを、「ちょっと待ってくれ」とコウセイは止めようとしたが効果はない。
「どんだけ悩んだのか知ってんのかよ。あんたみたいな男ならどこだっているのに。もっとマシな男だっているだろうに。つうか、おれ女が好きだったし」
トモヤスは言い訳のようにグダグダと話をつなげる。
「でも、いつも、最後は、コウセイが好きってなる」
トモヤスは土下座の姿勢のまま、止まった。コウセイはトモヤスの後頭部を眺めながら、思考は別のところにあった。
トモヤスが俺様会長の姿ではなく、トモヤス自身の姿でコウセイに「好き」と告げたのはこれがはじめてだった。
あれだけ一緒にいたのに、今、はじめてトモヤスの思いに触れたのだ。
「本気だったのかよ」
「当たり前でしょ」
「お前、ニタニタしながら言うから、冗談だと思った」
トモヤスが笑いまじりに冗談みたく告げたのは、自分の傷を広げないためだ。
「でも、本当だったんだな。今までの全部」
「うん」
「そうか」
コウセイは腕組みをして、重低音でうなった。
「あれだ。お友達からお願いします、とかいうやつは、ナシだからな。おれ、お前の本当の気持ちを聞いてそんなことできないから」
「じゃあ……」
退路を断たれたトモヤスは表情に影を落とす。
「付き合ってもいい」
コウセイの声でトモヤスは間抜け顔をすぐに持ち上げた。
「でも、キスはまだ早い。ちゃんと段階を踏め」
「うん」
「何かするときは、おれに断りを入れろ」
「うん」
「それから」
「それから?」
言い渋るコウセイに、トモヤスは顔を近付けていく。
「おざなりにしていた夢を叶えろよ。こんなテーマパークじゃあ、お前の夢は叶えられない。おれと付き合うことになったら、お前がここにいる意味もなくなるし。俳優になりたいなら、もっとお前のふさわしいところに行け」
劇団とか、モデルとか。お前にはもっとふさわしい場所がある。コウセイは力説した。
しかし、トモヤスは唇を平たくさせて、ゆっくりと首を横に振った。
「やだね。ようやくもらえた主役なんだ。腐女子のみなさんを喜ばせないと。それでこのテーマパークの評判を上げて、コウセイの給料もババーンと増やしてみせる」
顔をくしゃっと集めて、無邪気に笑うトモヤス。
「どうだか」と言いつつも、にやけた顔を押さえられないコウセイ。
「とりあえずさー、抱き締めさせて」
「勝手にしろ」
コウセイの言葉をいいことに、トモヤスは恋人となった男に強く抱きついた。