祈りと喧嘩
【おまけ】R15
イノリは俺の恋人。それは確かな事実だ。
だが、目の前の状況はどうだろう。俺の横にはイノリが眠る。何が起きるかもしれないでぐっすりと安眠をむさぼっている。
早く嫌がれと思いながら、額を指でなぞった。しかし、イノリはくすぐったそうに身じろくだけ。
今度は頬に唇を寄せて、首筋、鎖骨に吸い付いた。イノリの様子が気になって上目遣いで見るが、まつ毛が震えるだけで、まだ起きない。
いつもはいいようにされているから自分から攻めるのは楽しいものだ。下半身に熱が集まって昂ぶる。俺も興奮しているらしい。
布団の下をまさぐろうとすると、イノリの手がそれをはばんだ。
「それ、反則」
「お、起きていたのか」
「当たり前だろ」
イノリは目を伏せたまま、唇に笑みをのせた。先程つけたばかりの赤い点を指で示しながら、ますます笑うのだ。
「こんなところにキスマークなんか付けてさ、いやらしい」
「お前だって俺に付けただろうが」
首筋、鎖骨、胸元、股の付け根なんて、イノリしか付けない。
「仕方ないだろ。俺のものだってしるしをつけとかないとさ」
「そんなものを付けなくても、俺を抱くのはお前しかいない」
「そうだな」
イノリは満面に笑ったあと、俺の体に抱きついた。お互いに膝立ちになり向かい合った体勢で、体を密着する。
それはいいのだが、筋肉に覆われたかたい胸や腹をいやらしく下から上にかけて押しつけてくる。腰まで使うから、俺の胸がこすられて変な声が出た。
「でも、どうなるかはわからない、だろ? 他にもあんたを欲しがる男が現われるかもしれないし」
やっている行為とは違い、真面目なことを言われると多少、熱が冷める。
身動きをとるのを止めた。イノリの動きも止まる。
「俺が他の男におとなしくやられると思っているのか? だとしたら、遺憾だ。俺はそんなに意志の弱い人間ではない。イノリが俺以外の人間と関係を持つならばありそうだが……」
最後まで言うことはできなかった。言いたいすべての言葉はイノリの唇に吸い取られ、口の端からは吐息だけがこぼれ落ちた。
顔が離れたときには座った目が俺をにらんでいた。
「俺はあんたのライバルだった男だ。意志の強さもあんた並みにあるよ」
「そうか、そうだな」
一度くっついた唇同士を離さず、裸のまま乱れたシーツの上になだれこむ。背中や尻で敷くとシーツのしわが気持ち悪かった。
だが、直す余裕はなくて、また、イノリの愛撫がはじまる。次に迫る快感を耐えるため、シーツに爪を立てた。
〈おわり〉