【眩しい笑顔】

【日中を驚かせたい】


「日中、お誕生日おめでとう!」

 日中の部屋に入るなり、プレゼントの小袋を差し出した。

「これ、僕に?」
「うん、そうだけど」

 うなずいてみせたが、日中はゆっくりと目を瞬く。なかなか手を伸ばしてくれない。俺からのプレゼントに戸惑っている様子だった。

 俺は早く受け取ってほしかった。差し出したままで待っているのが、めちゃくちゃ恥ずかしい。「ほら」と、もう一度、差し出した。

 慎重に伸びてきた両手が少し震えている。そんな緊張しながら受け取るような代物じゃない。

 ここ数日、何をプレゼントしようかと悩みに悩んだ。幼なじみから恋人になってはじめての誕生日だったからだ。

 去年とは違うものを贈りたかった。でも、自分の浅い経験からは、なかなか答えは出なかった。知恵を絞りまくって出たのは、つい3日前。あやうく間に合わないところだった。

 受け取った日中は「ありがとう」と満面の笑みをくれる。

 それだけで、胸はちりちりと熱くなってきて、上着を脱ぎたくなってくる。たまらなくなって息を吐き出せば、火でも出ているかのように熱かった。

 日中は「開けてもいい?」と断りを入れてきた。そういう礼儀正しいところが好きだ。俺はうなずいた。

 日中は小袋から、果物の妖精のバッグチャームを取り出した。俺とおそろいだ。

 そして、妖精のキャラクターを見ながら嬉しそうに笑う。この笑顔がどんな光よりも眩しくて、尊いものを見ているような気がしてくる。

 しばらくは微笑ましく眺めていたが、妖精より俺を見て笑ってほしい。なんて、嫉妬がふつふつ湧いてくる。

 こんな気持ち、恋人になるまで知らなかった。俺が嫉妬深いことを日中と側にいる中で気づいた。しなくてもいいのに、日中の腕に触れる。

「嬉しいか?」
「うん、すごく」
「良かった」

 肩の力が抜ける。渡し終わるまで日中が喜んでくれるか、心配だった。もしかしたら、俺の財布事情を気にして、安くしてくれたのかもしれないと思っていた。

 実際、プレゼントを渡せば、本当に喜んでくれているのがわかる。

 日中は自然な流れで俺を胸に抱き寄せる。耳元で「嬉しいよ、ありがとう」と囁いた。甘い低音と吐息がかかって、俺の耳が熱くなる。ぜんぶ反則だ。

 流れで一緒にベッドに腰掛ける。漫画を読むときによく寝転がったベッドも、少しだけ意味合いが変わってきた。日中の前で無防備に寝転がっていい場所じゃなくなった。

 俺は膝を抱えながら、日中の体温にどうしたものかと焦っていた。息づかいをもろに感じる。胸が苦しくて、何度も呼吸した。そのうち、呼吸困難になりそうで怖い。

「な、なあ、日中?」
「ん?」
「くっつき過ぎじゃない?」
「小花はいや?」

 嫌じゃないのは知っているくせに、日中は意地悪な質問をしてくる。

「嫌じゃない。でも、俺だって日中とくっついたら、色々したくなるし……」

 顔が熱くて重くて、俺は首をもたげた。日中が首筋に唇を当ててくるから、くすぐったい。狭い腕の中で動くと、ふふっと笑われた。

「よかった。僕もしたいよ。あんまりすると嫌われちゃいそうだから、加減しているけど」
「加減? あれで?」
「うん。もっとほしい。でも、小花としたいのは、そういうことばかりじゃないから。手を繋いだり、ただ歩いたり、映画を見たり、ゲームもしたい。美味しいものも食べたいし、話がしたいし、笑いたい」

 日中の指に自分の指を絡ませると、恋人繋ぎになる。

「俺も日中といっぱいしたいことあるからな。ここからの1年も一緒にしよう」
「そんな嬉しいことを言うと、泣いちゃうよ」

 冗談だろと思って、後ろを振り向いたら、本当に日中が泣いていた。

「嬉しいなら泣くなよ。笑ってほしいんだけど」

 涙を拭いながら言えば、日中は「そっか」と、俺の額にキスした。急にされたから、こちらの方が驚いた。

〈おわり〉
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