番外編

【当て馬じゃない】百合本視点


「わたしは当て馬じゃない!」

 夢からさめてすぐに、そんなことを叫んでいた。

 ベッドから上体を起こして、夢の断片を思い出そうとするけど、全然ダメだった。当て馬じゃないって、何でだろう。

「ねえちゃん、大丈夫?」

 ドアがノックされて、弟の声が聞こえてきた。部屋の外にまで聞こえていたなんて恥ずかしい。

「全然、大丈夫!」

「なら、いいけど」

 そこから強引に踏みこんでこない弟は、空気の読める男に成長した。

 本当に姉思いで、真っ直ぐですれたところがない。背なんか、わたしを越してきたし、むちゃくちゃ格好いい(日中くんとはまた別で)。

 ただ、男の趣味は悪い。なぜに、こんないい子なのに、平出が好きなんだろう。モブマスク平出のどこにひかれているんだろう。まったくわからない。

 そういえば、わたしの周りにもう一人、当てはまるのがいる。

 小花だ。あの男もなぜか、日中くんに好かれているラッキーボーイ。

 イケメンって、自分に無いものを求めるのだろう。
おそらく。

 じゃなきゃ、本当に泣けてくる。

 あー、やっぱり、わたしは当て馬かもしれない。日中くんに告白して、結果はダメだった。

 わかっていたことなのに、区切りをつけなくちゃと思った。

 日中くんにすれば迷惑だったと思うけれど、ちゃんと話を聞いてくれた。その上で、「ごめん、僕は小花しか見えないから」と、はっきり振ってくれた。

 今でもその声を思い出しては、涙腺がバカになる
ぐっと鼻の奥が痛くなって、「泣けよ」って言ってくる。

 ――「うるさい、バカ、こんなので泣くか」

 本気で人を好きになって、振られたんだ。これ以上、落ちこむことなんてない。

 後は時間と人が解決してくれる。じゃなきゃ、これからの人生を生きていけない。

 とにかく今日は、小花にめちゃくちゃおごってもらおう。それで、日中くんが嫉妬して、後で説教されればいいんだ。

 ふんと、布団を蹴飛ばし、ベッドから起き上がる。結局のところ、わたしが当て馬だろうがなんだっていい。

 おバカな小花の背中を押せた。

 そして、一番好きな日中くんを幸せにできたんだから、最高の当て馬じゃないか。

〈おわり〉
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