番外編
【日中の視点end】本編後
体に重みを感じて目を開けると、小花がいた。夢なのかと、もう一度、目をつむって見たけど、状況は変わらない。小花は僕の体の上(布団が邪魔)で寝ている。
いつの間にこんな状況になったのか、考えてみることにした。
昨日は「夕飯、作りにいくから」と言うために、前の晩から眠れなかった。
そこにきて、まさかのお泊まりを了承され、恋人になり、料理も食べてもらって……。キス……をして、別々に寝たはずだ。
いろいろありすぎて、疲れていたんだと思う。嬉しい疲れだった。だから、割りと簡単に眠れた。
起きたら起きたで、こんな幸せが待っていたなんて、顔が崩れてしまいそうだ。
できれば、しばらくこのまま小花の体温を感じていたい。とは思うけど、この寝顔をスマホにおさめたい気持ちも強くなってくる。だけど、体を動かしたら、小花が起きてしまうかもしれない。
寝顔も可愛いが、僕にくっついているだけで、いつにも増して可愛い。可愛いを通り越して、やばい。
腕を小花の背中に回したいけど、何か緊張する。胸の辺りに置かれた手なら握っても大丈夫か。葛藤をしている間に、声が聞こえてきた。
「ひなか、す……」
「えっ?」
思わず、驚きが声に出てしまう。“す”の続きを期待して待つけど、まったく“き”とは言ってくれない。穏やかな寝息を立てているだけだ。
「すき」と言ってくれそうだったのに、ちょっと、残念だった。夢の中でも小花が想ってくれたら、嬉しすぎてどうにかなってしまうかもしれない。
「好きだよ」
早く目が覚めないかなと思う。キスしたい。話がしたい。
人に対してこんなに欲があるなんて、自分でも知らなかった。しかも、その欲が嫌じゃないからやっかいだ。
「ちょっとだけ」
前髪を横に流して、現れた額にキスを落とすと、「ん」と声がした。
「小花」
小花の瞼が開く。僕に目を向けた小花が寝ぼけているのか、ふわっと笑う。誰にも秘密にしておきたいくらい可愛い。騒がしい心音が小花にも伝わってしまっているかもしれない。
「ひなか、起きた?」
声をかけられて、詰めていた息を吐き出せた。
「ん、おはよう」
小花はたぶん、今の状況をわかっていなかった。寝起きがあまり良くないから、また目をつむって大人しくしている。
僕の体に乗っていることに気づいたら、きっと、叫び声を上げるに違いない。それまではこうしていてもいいかな。
小花の頬を撫でていると、欲がわいてくる。今までは我慢してきたけど。
「キスしていい?」
こんなお願いを聞いてくれるだろうか。
「いいよ、ひなか」
幸せすぎて、泣きたくなるって、本当にあるんだなと思った。
〈おわり〉