甘くない話

2 【じゃんけん】


生徒会長と書記であるおれは、プールサイドに立っていた。

水の張られたプールの横で二人。制服姿の男子がそろう姿はなかなかレアだと思う。

そういう状態になったのも、この季節に行われる水泳大会の準備のためだ。
水泳大会というのはその名の通り、泳いで順位を決める。毎年、夏休み前の七月中旬に行われ、まさに男同士のガチンコ勝負!
しかも、他校からの(主に女子校)観客を集めることができる。ゆいいつのうるおった大会なのだ。

男子校のみんなの思いを胸に、観客をたくさん動員できる室内プール場を手配するため、おれと会長はやってきた。

「何で、書記と一緒なんだよ」

「仕方ないでしょう? じゃんけんに負けたんですから」

この台詞、前にも口にした記憶がある。いつだったろう。思い出ない。
そればかりか、積もり積もった不満が一気に押し寄せてきた。
できればおれだって、副会長と学園に残りたかった。残りの作業を終わらせるために、パソコンに向かいたかった。
でも、大事なところで、
おれの右手は弱さを見せた。
人生を左右するじゃんけんに、チョキを出してたやすく負けた。会長も一緒に。

「会長もじゃんけん、弱いですよねー」

人生は負けていないと思うのに、いつもじゃんけんに負けている。不思議な人だ。
おれの発言に、切目はますます釣り上がってしまう。

「じゃあ、おれと二人でやってみるか?」

「のぞむところです!」

プールサイドでじゃんけんをする男子高校生は、なかなかシュールな画かも。
じゃんけん、ぽん。

「勝ったな」

「負けたー」

おれがグーを出せば、会長はパーを出していた。おれの負けだ。

「もう一回」と泣きで何度もじゃんけんをしたが、結局おれは、会長相手に一勝もあげられなかった。

「強いじゃないですか、会長」

「まあな」

「じゃあ、何でいつも大事なところで負けるんですかねー」

もしや、会長って。
横顔を見上げてみれば、耳元が赤く色付いていた。

「し、知らねえよ」

どもり声におれは強い確信を持った。
会長は勝負にめっぽう弱い人なのだ。

「どんまい」

会長は何言ってんだ、こいつ? というように眉根を寄せる。

「いいえ、何でも」

今言ってしまえば、不機嫌になるのは目に見えている。だから、心のなかでは言わせてくれ。会長、あんたは残念な人だ。

〈おわり〉
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