ゆずりあい
2 【こじれあい】別視点
言ってしまった。
帰宅部のあいつに。お前に告るみたいなことをだ。
言うつもりはなかった。
ずっと蓋をして、忘れた頃に、「自分、血迷ってたなあ」と後から想えればよかった。
同性を好きになることをずいぶんと考えたが、怜奈ちゃんを好きなあいつがおれと付き合う確率なんて割り出す気にもならない。
それでも、わずかに期待を持っていた。
もしも、あいつが怜奈ちゃんに告り、完璧に振られれば少し隙ができるかもしれないとか。
女はこりごりだと思うとか。
そんな期待は、あいつの悲鳴と同時にくだけちって、バラバラになると、おれの身体に突き刺さった。
「あの、おれ、邪魔だな」
部員の奴がいなくなり、無言のふたりが残される。
いまだ、口を半開きにしたあいつがおれを見ていた。
「大丈夫か?」
反応は瞬きだけ。生きていることは確かなようだ。
おれに嫌気がさして口もききたくないのか。
悪い予感を持っていたら、震えた唇が動きだそうとしていた。
「……意味わからない」
「は?」
「おれに告るって何で」
混乱しているようだが、伝わっていなかったらしい。
なら、もっと遠回しではない方法で。
「お前が練習を見にくるたびに、何となく気になって、声をかけて。話すうちにだんだん、おれ、おかしくなってきた」
ふとしたときに手を握りたくなったり、キスしてみたくなったり。
女の子に向けるはずの気持ちが目の前の男にも芽生えてしまった。
ずっと耐えてきた。
「おれ、お前のことが好きだったから、ずっと告りたかった」
理由にはなるだろう。
あいつの反応を見るのが嫌で、そろそろ練習に戻ろうと背中を向けた。
「忘れろよ、ごめん」
自分を守るためにそう言った。あいつは何も言わなかった。