学園テーマパーク
【第二話】
教室はマネキンが授業中だった。エロホスト教師(マネキン)を横にどかし、教卓の上にて頬杖を突くのは俺様会長トモヤスだ。
すみからすみまでマネキンの整備に余念のないつなぎ男、コウセイをじっと見つめている。
「今日はいつもよりはりきってるねー。お客なんて来ないのに」
「お前、聞かなかったのか? 今日、学園長がミーティングで言っていただろう?」
「何だっけ?」
思い出せるわけがなかった。トモヤスはミーティングのほとんどを寝て過ごしていたのだから。
「あのなぁ」コウセイは手を止めてからため息を吐く。
「まあ、いいか。よく聞け。腐女子というお客さまをターゲットにして、ツアーが組まれるらしい」
「ツアー?」
「ああ、二泊三日。腐女子のみなさんが転入生となったていで、色々イベントを行う」
「へえー、腐女子ね。腐女子って、腐がついていても、女子だよね?」
「それがどうした?」
「女子が来るから気合い入れてたんだ」
コウセイは図星を突かれ、頬や耳を真っ赤に染めた。
何だかんだ話をしている間にも、二人の距離は縮まっている。
「ふーん」
「な、何だよ」
今や、顔と顔とか触れる距離である。
コウセイは後ろにどこうと試みるが、備え付けのロッカーがはばんで逃げられない。
しかも、トモヤスに身体ごと密着され、身動きもとれないという有様だ。
「はしゃいじゃって、本当にムカつく」
「仕方ないだろ! こんな田舎じゃ出会いもろくに」
コウセイは「ない」と言おうとしたが、目の前の唇に言葉を奪われた。
抵抗しないのをいいことに、トモヤスは肩と腰にも腕を回す。
コウセイが久しぶりの感触に戸惑っている間にも、トモヤスは勝手に進める。
手入れのされていない、ざらついた唇の表面をなめられると、コウセイはさすがに意識を取り戻した。
「何すんだよ!」
一生で一番の力だった。
前に出した両腕がトモヤスをふっとばした。
「ふざけんな、馬鹿」
コウセイはてかる自分の唇を手の甲で何度も拭きながら、教室を後にした。
残されたのは、マネキンとトモヤスだけ。
「何で伝わらないのかな」
普段よりも低い真剣な声は床に落とされた。その声は、だれの耳にも触れることなく、空気のなかに溶けていった。