番外編

【日中の視点3】【ずるい笑顔】後


 ふらふらと廊下を歩いて、バスルームを目指す。頭のなかでは、さっきの小花のことばかりが思い出される。

 小花はきっと、あの場面で、僕とキスをしたくなかった。だから、カレー味だなんて言って、雰囲気をぶち壊してきた。僕もわかっていたし、いつものように笑って終わりにすれば良かったんだ。

 それなのに、小花の笑顔を見たらどうしようもなくキスしたくなった。自分を抑えきれなかった。不意打ちで唇を奪ってしまった。

 小花はどう思っただろう。僕の裸を想像しただけでエロいと思ってしまう小花だ。わけがわからなくなっているかもしれない。今頃、奇声でも上げて、頭を抱えているかもしれない。

 さすがに小花相手にキスは早すぎたかと、反省しかない。シャワーを浴びて、頭を切り替えよう。普段の僕に戻って、そばにいるだけで満足しよう。

 そうじゃなきゃ、小花のそばにいてはダメだ。小花がちゃんと僕を求めてくれるまで、待つしかないんだ。

 ここまで来るのに何年かかったと思っているんだ。小花に嫌われたら生きていけない。小花に対する僕の下心は、絶対に見せてはいけない。絶対に、だ。

 決意を持って、洗面台へと続くドアを開けた。

〈おわり〉
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