甘くない話

【甘くない日常】会計視点/付き合う前の話


会長が適当に選んだ書記。
まあまあ、ふつうに仕事をこなしてくれればよしとしていた。
ミーハーみたいに騒ぎさえしなきゃOK。

つーわけで、置物のように扱っていたんだけど、副会長はいびり倒そうとしていた。
まあ、副会長はきれいなものが好きだから、書記のふつうの顔が気に障ったんだろう。
それに細かい性格だから女に振られてばかりだしね、かわいそうな人なんだよ。

「ここは違うだろう。まったく」

完全に言い掛かりで、長々と説教するようだった。
横で聞いてる僕も辟易する。
でも、関わるのはめんどうくさい。
勝手にやっていてほしい。
ここは用事があるふりをして退室するかと思ったら、思わぬところから助け船が出た。

「すまん、その間違いはおれだ。おれが変更するよう頼んだ」

「か、会長が?」

あの副会長でも会長に逆らえるわけない。

「ああ、だから、もういいだろう」

「ええ、まあ、そういうことなら」

めずらしいこともあるもんだ。
副会長は恥ずかしくなってきたのかだまりこむ。
ざまあないな。

「あの」書記が言う前に、

「お前も違うなら違うと弁明しろ。何でもかんでも自分のせいにしていたら体がもたないだろうが」

あれ? 会長ってあんなにやさしい顔をしていたっけ。
めずらしい光景にじっと見つめていたら、会長と目が合った。

「会計、どうした?」

「いやあ、会長は書記が好きなんですね」

思ったことをそのまんま口にしたら、会長は顔を上気させて目を丸くした。
別に恋愛感情で好きと聞いたわけじゃないのに、大げさな反応だ。

「好きなわけ、あるかよ……」

もしかして、恋愛感情ありの自覚なしだったのかも。
ウブだなあ。

まあ、協力しないけど。がんばれ。
となりにいた書記は首を傾げてさっさと自分の席に着いたが、会長だけはしばらく突っ立っていた。

〈おわり〉
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