眩しい笑顔

1 【日中の笑顔】


 日中の笑顔はすっごくいい! 正面からのくしゃくしゃに笑う顔もいいが、横顔からのぞかせる白い歯の並びも最高にいい!

 俺がドジっても「大丈夫?」と苦笑する顔も実に癒される。どこぞの俳優にも負けない爽やかさと心のくすぐりさ(もだえたくなる)を体感できるのが日中の魅力だ。

 日中に群がる女子たちはどう見ても見る目があると思う。あの笑顔の王子を彼氏にしたいのもわかる。日中は女子に対してものすごく優しいし、わけへだてなく誰でも受け入れてくれる。

 だから、好きになってしまう気持ちがわかる。俺も女子なら迷わず行くだろう。

 俺はあいつと親友でいられることに感謝している。願わくばずっと、視界の範囲内でほほえんでいてほしいとか、バカな話に呆れながらも笑ってほしいと思っている。

 でも、日中はひとりだけのものではなかった。独占するなんてできないことを、今さらながら気づいたのだ。

 ある日、可愛らしい女子が日中に告白した。もちろん、その告白は「あなたが好きです」というわけで、学校中にうわさが飛び交った。

 とうとう日中は彼女を作るのだろう。俺のような親友の優先度は下がるはずだ。

 がっかりする。胸が痛む。みるみると俺の健康は損なわれていった。

 今までたくさん見てきた日中の笑顔を、明日から彼女だけがたくさん見るのだろう。それは涙が鼻から襲ってくるくらい悲しいことだった。

 さて、翌日の日中のとなりには相変わらず俺が居座っていた。つまりは日中は付き合いを断ったのだ。

「日中、お前いいのか?」

 せっかく彼女ができるところだったのに、俺なんかと登校していいのか? 珍妙だとうわさされている俺たちの関係を続けていいのか?

 その質問に日中は苦笑した。苦笑した横顔も最上級にいい感じだ。瞼に焼きつけたい。じっと見つめる。

「別にいいって。僕は彼女なんて、欲しくない。今は……」

 モテない俺だが、日中の彼女いらない発言は安心した。まだ一番いい位置から笑顔を見られる。落ちこんでいたメンタルも上がってきた気がする。

 何か言いたそうにこちらを見てくる日中に、「今は」の続きを聞いてみた。

「いや、別に」

 日中はごまかすように笑う。本当に楽しいときは目元もくしゃってなるから、心から笑ってない。

 俺は知っているから詰め寄ってみると、日中は歩く速度を上げた。置いていかれる! 

「お、おい! 日中!」

「ごめん、ごめん」

 日中は足がもつれそうな俺に気づいて、歩く速度をゆるめてくれた。

「今はこのままがいいんだ」

「そう、なのか?」

「そうだよ」

 日中は、俺の頭を優しく撫でる。そんな日中は、今日一番の笑顔をくれた。
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