学園テーマパーク

【第一話】


周りは見渡すかぎりの畑と山々。人里離れた敷地に構えられた学園テーマパークという名の地方遊園地は、経営不振にあえいでいた。

リーマンショック直後からではない。バブル崩壊の少しあとからだと推測される。

もともと無謀ではあったのだ。安くて広大な土地に建てたはいいが、道路もろくに整備されていない場所で、お客が来るはずがなかった。

廃校を整備しただけのテーマパークにどんなアトラクションがあるのか。

はじまりはここからだ。
もさもさの頭(つまりカツラ)をかぶったマネキンが正門前にたたずんでいる。まさに見上げていて、「うわ、でか」とでも言っているのかのようだ。

ただ、青い瞳を隠すように瓶底眼鏡をかけているため、わずかな表情しか見ることができない。

正門に人の姿が現われた。一人はつなぎを着ている男、もう一人はブレザーを羽織る男。

特徴のない顔が特徴の、つなぎの男は、マネキンの表情を確認する。彼はマネキンの整備を行う技師だった。

「真面目だねー。どうせお客なんて来ないのに」

ブレザーを着た男はぶーぶーと文句をたれた。彼はこのテーマパークで唯一の生きたアトラクションだ。

俳優志望の彼は、もともと演技力には長けていた。俺様会長という難しいポジションで、マネキン生徒会を牛耳る。もっといえば、マネキンの世界全体をまとめるリーダーというべきか。

「文句言うならやめればいいだろ、トモヤス」

「やだね。おれはコウセイが好きなの。一緒にいたいの」

正門で告白を受けたコウセイと呼ばれるつなぎ男は、トモヤスの言葉にどういう反応を見せたか。ひとことで言えば、無反応。

実は「好き」と、「一緒にいたい」は毎日言われている言葉だったりするのだ。

「馬鹿も大概にしろ」

「何で通じないんだろー」

コウセイはまるで応じず、正門前から去った。
トモヤスも肩を落としながら、テーマパークに帰っていった。
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