しんじゅの色

【第二話】


ベッドから起き上がってカーテンを引く。朝日を顔に浴びて、そしてまた今日がはじまるんだって思う。

昨夜はびーるの意味も解けないまま眠ってしまった。
だけど、二度目の夢はあんまりいいものじゃなかった。
砂浜でさんごをもらう夢だった。
現実に初恋の人が現われるまでは見ればすごくうれしかったのに。
あの頃は現われますように……なんて寝る前に願うほど見たくて仕方なかったのに。

今は夢を見ては泣きたくなってしまう。泣きたくなっても唇を噛み締めてこらえるしかない。本当に情けない。

袖で涙を拭って部屋を出ると、向こう側のドアから関さんが現われたところだった。

「おはようございます」

反射的にあいさつする。
だけど関さんは顔をそらして無視する。
この人らしいなと思って見ていると、あることに気付いた。

「あれ?」と口が滑る。それくらいめずらしかった。
関さんがこの部屋にいるときは大体、青士せんぱいも一緒だった。半裸なのに後ろにだれもいないなんて。
ぼくの疑問に気付いたように関さんはうっとうしそうに髪の毛をかきあげて、こちらをにらんだ。

「全部、お前のせいだからな」

ぼくのせい?

「どういう意味ですか?」

「こいつは何にも覚えてないっつうのにな」

答えにならない応えが返ってくる。
え? 頭のなかが真っ白になっていく。

「あの、覚えてないって?」

「俺に聞くな。青士に聞け」

関さんはぼくを置き去りにして、バスルームに行ってしまった。
「青士に聞け」の意味を思考に沈んで考える。
でも、考えても無駄だ。ここで沈んでも何も頭に浮かんでこない。疑問が漂うだけ漂っていく。

ぼくにも草原せんぱいみたいに失くした記憶があるのだろうか。
忘れてしまった何かを思い出すには、そのかけらすら掴めなくて、もどかしい。
関さんの言葉を頭に浮かべながら、リビングに向けて足を一歩前に出した。
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