しんじゅの色
【第一話】
フェスティバルが終わってまた一難。ぼくの知らないところで何かが動きだしたらしい。
早く言えば、いやがらせ。靴のなかに画鋲――はさすがにないけど、ものが消えたり、変なうわさを流されたり、「学園から去れ」という手紙を机のなかに入れられたり(カミソリはなかったよ)。
これって全部、親衛隊の仕業らしい。一安くんが教えてくれた。
何でうらまれているのか心当たりはある。草原せんぱいの一件が響いているのだ。
相手は複数だろうし、いちいち対処してもらちがあかない。とりあえず、様子を見ることにした。
その日も一安くんと兼定くんとの三人で食事中だった。知らない番号からの発信でスマホが鳴りっぱなし。出ると、「バカ」とか「アホ」とか、言われる。
スマホの画面を覗きこんだ一安くんはあからさまに不機嫌そうな顔をした。「電源切っちゃいなよ」と言う。ぼくもまいっていた。一安くんの言われたとおり電源を落とす。
「もう親衛隊のことは兄貴に任せたほうがいいかもね」
「でも、青士せんぱいを巻きこみたくないな」
「マノ、このままほっといたらますますエスカレートするよ。俺と兼定は親衛隊によって傷つけられた人を何人も見てきたんだからね」
兼定くんも「そうだ」と言うように合わせてうなずく。
「悔しいけど、今回は規模が違うし、兄貴に任せたほうがいい」
草原せんぱいのことがあってから青士せんぱいと顔を合わせづらくなっていた。
だけど、そういうことも言っていられない。「わかったよ」青士せんぱいを頼ることにした。
今日の授業がとどこおりなく終わると、部屋に戻った。
兼定くんからもらったお札をさんごのとなりに置く。このお札は呪い返しに効くらしい。呪い返しって何だろう。
気を取り直して、一安くんからもらった番号に連絡をしようと、もう一度スマホに電源を入れる。
未読のメールがあった。
メールにはこう記されていた。
『あした、そちいく。むかえいらない。おまえだち、びーる』
知らないアドレスから送られてきた。
あしたとむかえいらないは意味が通じる。
他は暗号だろうか?
びーるってだれだろう?
びーるびーる。何度も口にしてみる。
目をつむってもびーるさんの顔は浮かばない。いたずらかな。いたずらにしては変な感じ。
ま、置いておいて、とにかく、青士せんぱいにメッセージを送らなければ。
『青士せんぱい。お話したいことがあります。小沢真信』と送信したところで、とうとう体がふわふわと軽くなっていった。寝てしまった。
なぜかその日の夜だけは、アメリカにいた頃の風景が夢に出てきた。