こはくの色

【第八話】


青士せんぱいと関さんはとっても目立つ。
なんといっても二人の衣裳が似合いすぎるのだ。
キャバ嬢とホストの組み合わせは、道行く人たちの目を奪っていく。
好奇な目にさらされながら、お昼にと、たこ焼きと焼そばを買った。

二年生のブースについたときには本当に心の底から安堵した。もうあんな好奇な目で見られることもないのだ。

だけど「さあ、どうぞ」と青士せんぱいに店内へと招かれたとき、ぼくのなかで別の緊張が走った。

教室の窓は闇夜を演出するように暗幕がかけられている。
カウンターと接客のテーブル、皮張りのソファ。落ち着いた雰囲気の店内には邪魔にならないくらいの低音のミュージックがかかっている。
ぼくのような人間は場違いな気がして。

「小沢くん、こっちおいで」

青士せんぱいが手招きしてぼくを連れていったのは一際、大きいソファ。
もちろんお酒なんて出るわけもなく、アルコールゼロのジュースが出る。

居心地が悪くてもがっちり両肩を抱かれてしまって逃げられない。
買ったたこ焼きと焼そばがテーブルにくばられる。
完全に場違いだ。
そんなことも気に留めない二人のせんぱい。
関さんは焼そばをかきこみ、青士せんぱいは青のりを器用にはけながらたこ焼きを口に入れた。

ぼくも二人に挟まれて「いただきます」とか細く言った。
たこ焼きを口に放りこみながらも二人の顔を思い出す。
一人は一安くん。青士せんぱいには気を付けろと口を酸っぱく言われているのだ。

そしてもう一人は……。

「あ、そういえば、草原が生徒会の劇でヴァンパイア役をするんだと言っていた」

「草原」。
今まさに草原せんぱいのことを考えようとしていた。言い当てられたようでびっくりする。

青士せんぱいの一言にたこ焼きを吹き出すかと思ったけど、寸前に手を当てた。大丈夫、戻していない。

せんぱい二人は話題を変えた。
とりとめのない話。ぼくは流れにさからわずに、これから幽霊の役をすることを言った。

「残念だな。僕も見に行きたかったけど、これからホストにならないといけないから。あとで草原にも言っておくよ。代わりにきみの雄姿をカメラに押さえてもらわないとね」

「いえ、いいです!」

全力で首を横に振るけど、青士せんぱいは取り合ってくれない。
ぼくのあの格好を草原せんぱいが見たら、大爆笑間違いなしだ。
「マノ、傑作だ」と指を差して腹を抱える姿は想像しやすい。
さらに最近逢わなくて落ち着いているのに、また逢って気持ちが乱れるのはちょっとだけ恐い。
別に何が起こるか、期待しているわけじゃない。ぜったい気付いてもらえないだろうし。

「まあまあ」

なだめる青士せんぱいは何も知らないのだ。きっとぼくの意見を真に受けないだろう。なんて憂欝なんだ。
でも、どうしたわけか、気持ちに反して高鳴る胸がおかしかった。
8/21ページ
スキ