さんごの色
【第三話】
校舎を出て校庭を横目にして先に行くと、三つの塔に突き当たる。横三つに並んだ塔は唯一、橋でつながれている。
外観は三つともそれぞれ違う。左は紋章の描かれたフラッグがかかげられていて、ブーツのようなかたちにボールや走る人影が表されている。
まるでサポーターが振るような大きなフラッグは、スポーツ特待生の寮なのだろうか。一階にはジムもあるようだ。
右はふつうのマンションで特にこれといって特徴はない。あるのはマンション横のミニブタのケージぐらいで、なぜか安心した。
驚くのは真ん中のマンションだ。
警備員(SP)が立っていて透明なガラスの筒に囲まれたエレベーター、高級ホテルのような豪華さをまとっていた。
「マノの寮は一応、右の塔だ。寮長は、山田か鈴木か、いや、佐藤だったか。まー、そのなかの一つ」
真ん中のマンションに目を奪われていて集中して聞いていなかった。
「同室者はちょっぴりおもしろいかもな」と言って草原せんぱいは右のマンションを目指した。
寮にはカウンターがあってその奥には人がいた。この人が寮長だ。
草原せんぱいが「山田だっけ、鈴木だっけ」と唱えていたから。
「こんにちは、さんぼさん」
山田も鈴木も、どちらも選ばなかったようだ。“さんぼさん”と呼ばれた人は不服とばかりに「あのね」と強く前置きした。
「さんぼはブタの名前です。何度も言っているように僕の名前は……」
「今はそんな暇ないの。小沢クンを連れてきたからあとよろしくね」
あまりにもさきほどと違う草原せんぱいの態度にぼくは変な顔をしていたと思う。
草原せんぱいはぼくの横を通りすぎるとき、耳もとで「余計なことは話すなよ、マノ」とささやいた。ぼくのニックネームはマノに確定なのだろうか?
「えーと、小沢くん、きみきみ!」
カウンターに置いた手元の資料をめくりながらさんぼさん(名前は違うらしいけど何となく)はわざとらしく大声を上げた。
どうしたんですか? と聞かれたそうに目配せしてくるので、仕方なく「何か?」とたずねた。
「きみの同室者、やっかいですよ」
草原せんぱいも「同室者はちょっぴりおもしろいかもな」と言ったのだ。カウンターから出てきたさんぼさんは「ついておいで」と二階へと招いた。
三階、四階と段を上り、ようやく廊下を折れると、似たような扉がいくつも並んでいた。廊下には赤じゅうたんが敷かれてどこかのホテルみたい。
「小沢くん」
さんぼさんが足を止めた。猫背がくるっと後ろを振り返り、ぼくを見つめる。両肩を強く握られたかと思うと
「がんばってくださいね!」
激励された。握手のように部屋のカードキーをぼくに握らせ、その場から退散された。
最後にもう一度だけ「がんばれ」とガッツポーズ。
とりあえず口を引きつらせてお辞儀をしておいたけど、何だっていうんだろう。
草原せんぱいはおもしろいと言った。さんぼさんはやっかいと言った。ぼくの同室者はいったいどんな人なんだろう。
開けるのが少し恐くて、落ち着くために先にインターフォンを押した。震えて間違えて多めに鳴らしてしまうけど。
ちょっと待っても応答はなくて、「ごめんください」と断ってから扉を開けた。