こはくの色
【第三話】
さてあの後、風紀委員の幹部の人にあっさり見つかり、二人ともこってりとしぼられたわけだけど、放課後はうってかわって、おばけ屋敷の準備で忙しかった。
手の空いているクラスメートたちが役割分担をして、それぞれ仕事をこなす。
ぼくは血みどろの文字を看板に描きながら、となりの一安くんをちらっと見た。
先程の説教はほとんど効果はなさそうで、幽霊役の衣裳を掴んでおもしろそうに見ている。
「汚れたら大変だよ」
「大丈夫。血がついたらついたで臨場感が出るし」
まあ、血だらけのほうが恐いかもしれない。
真っ白なワンピースは女性の幽霊になりきるための衣裳。
アメリカにも白い服を着た女性の幽霊を車に乗せると死ぬっていう伝説がある。
その女性の衣裳をまだだれが着るのか決めかねていた。
「マノが、これを着てみれば」
「これを? 嫌だよ」
「マノなら似合うと思うけどね」
華奢で可愛い子(青士せんぱいを浮かべた)なら男でも違和感ないと思うけど、ぼくは全然ダメだ。
とにかく着たいとも思わないし。全力で首を横に振る。
「一安が着てみればいい」と、いつ来たのか兼定くんの声がした。
「嫌だよ! って、サッカーはどうした? サッカーは」
「おう、自主トレになったから、抜けてきた」
無表情な兼定くんは運動着のままだった。
「だったら自主トレしていればいいのに」
「淋しいかなと思って。こんなに離れたことないだろ」
「淋しくないよ、マノがいるし」
「そうか? じゃあ、戻る」
兼定くんが膝に手を当てて立ち上がると、一安くんはシャツの裾をひっぱった。
「も、もうちょっといれば」
本当は一安くん。あんなに強がっても淋しかったんだ。兼定くんのいない風紀委員会はほとんどないと言っていたし。
一緒にいられないのがつまらなくて委員会をエスケープしたのかもしれない。
友情だなあ。何だか二人のきずなを再確認できた気がして、胸がくすぐったかった。だから、笑った。
「わ、笑わないでよ、マノ!」
動揺するように真っ赤な顔をする一安くん。ますます笑ってしまう。
兼定くんも肩を震わせて顔をうつむかせた。ふたたび顔を上げたとき、
「なあ、一安が呼ぶように、マノって呼んでいいか?」
「うん」
兼定くんにもマノって呼んでもらえるなんて、うれしい。また浮かれて笑ってしまうんだ。