うちのゴーレム
【第1話】
ゴーレムは命令の意味を理解できますが、人の言葉は話せないといいます。
確かにゴーレムには声帯がないため、どうやっても話し出せないはずです。
口も作り物だし、舌もない、胃もないですから、食事を取る必要もないのです。
しかも、ゴーレムは主人の命令にぜったいであり、危害を加えられません。
主人に危害を加えようものなら、書いた呪文の1文字を消して土に戻すことができます。
あとは人形の回り方(作るための儀式の踊り)を逆にすると、これでまた土に戻せます。
そんな便利な方法があるはずなのになぜでしょう。
僕の家に伝わる魔術師の手記にはそう記されていたはずなのに、ぬかりなく実行したのに、なぜ効かないのでしょう?
昨日、呪文の一文字を消して、寝ているゴーレム(まずゴーレムが寝ているなんておかしいのですが)の周りを逆回りにしてやったのに無駄でした。
起きたゴーレムに「お前、ふざけてんのか」と蹴り飛ばされただけでした。
そのため、今朝は身体中が痛んで起きるのに大変苦労しました。
「おい、飯を作れ」
うちのゴーレムは人の家の食堂でえらそうに、テーブルに足を投げ出しています。
無駄に長い足をクロスさせて、めちゃくちゃ行儀が悪い格好です。
せっかくテーブルをきれいにみがいても、ゴーレムのブーツが汚すのです。
もともとなかった金髪は、時間をかけて勝手に生えてきたものです。
どんどん伸びてきて目にかかるくらいになりました。
目は鋭くこちらをにらみつけていますが、青い瞳はなかなか綺麗です。
けれど、あまり長く見ていると怒られてしまいます。
器用に口の片端を上げてバカにしていますが、これはいつものことです。
本当に生きているような人形らしくないゴーレムです。
ゴーレムは強いですが、力に負けたくはありませんので、僕はなけなしの勇気をふりしぼってみます。
「な、何で、命令できるでですか!」
「言葉がおかしい。人間のくせに」
言葉を話せないはずのゴーレムに言い負かされるのが情けないです。
「人間だって混乱すると言葉が変になるんです!」
「そんなことはどうでもいい。飯を作れ」
「い、嫌です。ゴーレムはご飯なんていらないでしょう!」
「いらなくても食わねえってことはない」
それはどういった理論なのでしょう。
ゴーレムが主人に命令したり、にらみつけて凄むなんて話があるのですか。
まず、話せることがおかしいのですよ。
どうやって話しているのです?
僕が作ったゴーレムは話せて、なおかつ蹴飛ばすことができる理由はどこですか。
朝っぱらに腹が空く理由がわかりません。
なんてぐだくだ語っていましたら、「うるさい」と一蹴されてしまいました。
「お前は俺を作り出した。それが理由だ」
いや、まったくわかりません。
理解不能です。
「わかるまで一生こきつかってやる」
なんという極悪人の笑みでしょう。
結局、テーブルを破壊される前に台所に立ったのでありました。
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