歪曲恋愛
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あのあと、奈倉さんが呼んだという運び屋さん?のバイクに乗せてもらい、無事に帰宅した。
化粧を落として、シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。
なんというか、ショックは勿論ある。奈倉さんのことをほぼ無条件で信用していたし、いろんな話もした。自分のことを理解してくれる人がいるんだと喜びもした。だからこそ奈倉さんに対して残念な気持ちもある。
「けど、私多分奈倉さんと出会えてなければ
ここには来てないんだよね」
あのとき、嘘をついていたとはいえかけてくれた言葉が私の心を救ったのは事実で。
「考えても仕方ない、ネットの中にはそういう人もいるんだ、って勉強になった。」
もうきっと会うことは無いだろうけれど、良かったことだけを思い出として取っておこう。幸いにも、明後日からは職場である新宿店から暫く離れて池袋店への応援に行くことになっている。偶然会うこともきっと無い。
ブックマークしていた掲示板も綺麗に削除して、
寝る前にやりとりしたなと感傷に浸る。
――そこで気付いた。友人が1人もいない。
地元の友達はみんな連絡先を消してしまったし、新しい連絡先も教えてない。どこから情報が漏れるかわからなかったし、そこに関しては仕方ないことと思う。
「今更どう作ればいいのかなんてわからないな」
学校とかに通えばクラスメイトとか、とにかく交流が出来ると思うけれど卒業した今どうすればいいのかわからない。バイトは友人を作りに行っている訳では無いので馴れ馴れしくするのも気が引ける。
とりあえず明日、休みだからバイト先の周辺を散策してみることにした。
池袋の街はいつ来ても騒がしい。新宿とはまた違った雰囲気で、なんというか、昼の空気がする。
新宿はどう足掻いても夜の匂いがするから特に用がない限りあまり長居はできなかったけど、池袋なら仕事終わりにどこかに寄っても大丈夫だろう。
どこから行こうか携帯片手に道の隅っこにぼーっと立っていると、影。
「お姉さん、どこ行くの?」
「今暇? これでどう?」
三本指を立たせた男達に近付かれ、首を傾げる。
「……?」
これでどう、とは。
「三万。ホテル行こうよ」
意味がわからず首を傾げていると、男がニヤニヤしながら口を開く。
「あ……」
意味を理解して、一歩だけ後ろへ下がった。
これ、よくない流れだ。
「結構です」
「そんなこと言わずにさ」
「本当に結構ですから」
「いいじゃん。ちょっと付き合ってよ」
男がこちらへ手を伸ばしてくる。
どうしよう。
そう思った、その時だった。
「ふざっけんなァ!!」
少し離れた場所から、怒鳴り声が響いた。
思わずびくりと肩が跳ねる。
続けて、何かが派手に転がる音。
ガシャァン!!
「……え?」
視線を向けた先。
大きなゴミ箱が、まるで誰かに投げ飛ばされたような勢いで宙を舞っていた。
そのまま――
「うわっ!?」
こちらへ飛んでくる。
「っわ、」
思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
ゴミ箱は椿のすぐ横を掠め、ナンパをしていた男の足元へ落下した。
ガァンッ、と凄まじい音がする。
「な、なんだよこれ!?」
「平和島だ!!!」
さっきまで椿に絡んでいた男たちが、一目散に走り去っていく。
「…………」
動けなかった。何が起きたのか分からない。
ただ、目の前に転がったゴミ箱と、逃げていく男たちを交互に見つめる。
そして。
「……あ?」
低い声。顔を上げる。そこにいたのは、ひどく大きな男だった。
金色の髪。鋭い目つき。そして、ものすごく機嫌が悪そうな顔。
「……」
「……」
目が合った。怖い。率直にそう思った。
けれど、男は椿を見たあと、足元のゴミ箱を見て、理解したようだった。
「…… 悪い」
「え?」
「そっちに飛んだか」
「……はい」
素直に頷く。男はぶっきらぼうに手を差し出して引っ張りあげてくれた。
「怪我は?」
「大丈夫です」
「そうか」
それだけ。男はゴミ箱を拾い上げると、元の場所へ戻そうとしてるのかそのまま担ぎあげる。
すごい、と純粋に思った。コンビニとかにあるゴミ箱。相当重いはずなのに、まるでなんでもない事のように持ち上げてる。
「あの……」
「ん?」
「今の、あなたが……?」
「……ああ」
少しだけ気まずそうに視線を逸らす。
「悪かったな」
「いえ……」
椿はもう一度、男たちが走っていった方向を見て、それから、目の前の大男を見る。
「……助かりました」
「?」
「変な人に絡まれてたんですけど、ゴミ箱のおかげでいなくなったので」
「ああ……」
そこで初めて、自分が結果的に椿を助けたことに気付いたらしい。彼はなんとも言えない顔をする。
「じゃあ、まあ……気をつけろよ」
「はい」
男はそのまま歩いていく。
椿はしばらく、その背中を見送っていた。
「……力持ち、だな」
怖い人では、ないのかもしれない。
少なくとも、さっきの人たちよりは。
足元には、まだ倒れたゴミ箱が転がっている。
その向こうには、誰もいなくなった池袋の通り。
「……池袋って、すごいところだなぁ」
今日、初めて来たわけではないのに。
今までとは少しだけ、街の見え方が違った。
ゴミ箱が飛んだ日
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