青春微炭酸
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自信家でいて、可愛げのない女。
彼女のことはそう認識していたし、おそらく彼女自身がそう見られたかったのだろう。
だってそうでなければ、あんな態度は取らない。
「遠野、また人の男取ったのかよ」
「ありえね〜何回目だよ」
そんな風に聞こえるように文句を言う女には、
「取ったも何も、私は誰の気持ちにも応えてないんだけどな。光に吸い寄せられる虫のごとく、私が明るすぎるのがいけないの、ごめんなさい」などとふざけたような言葉を並べて煽り返し、またある時は告白してきた男に「なんの接点もないのにどうして告白しようなんて思ったんですか?」と疑問をぶつける。
あの衝撃の出会いから早数ヶ月。金田一とつるむようになって、気が付けばいつも雛は傍をうろつくようになった。自然と関わる機会も増えていく。俺も、彼女を取り巻く大抵の事は驚かないようになった。だって、あまりにも多すぎるのだ。
「雛、また何か怒らせたの」
「私にはさっぱりわからないけど……
今どきこんな嫌がらせってあるんだね」
下駄箱を覗き込んで一瞬固まった彼女を見てまた何かあったのかと後に続けば、上履きにこんもりと鉛筆の削りカス。雛は金田一の部活の朝練に合わせて登校しているので、まだ生徒も少ない。おそらく昨日の放課後に仕込まれたのだろう。彼女は顔色ひとつ変えずにひょいと手に取り、迷いなくゴミ箱にカスを捨てた。慣れた手つきでカバンからビニール袋を取り出し、黒く汚れた上履きを無造作に入れる。
「雛?何かあったか?」
当番のため体育館の鍵開けに行っていた金田一が戻ってくると、遠野は手に持っていたビニール袋をカバンの中に隠す。
「んーん!なんでもない!私ちょっと職員室行くから!2人は朝練行って」
ぱたぱたと軽い足取りで靴下のまま廊下を駆けて行く様子を見送る。悪態をついてばかりの彼女も、いとこである金田一には欠片も見せない。今だって気づかれまいと逃げていく。
それが、とても違和感だった。お人好しの金田一のことだ。いとこである雛が嫌がらせを受けていると知ればきっと黙ってはいない。
雛も、雛に嫌がらせする人間も、
隠すのが上手いせいで金田一の中では遠野はいい意味でも悪い意味でも目立っている程度の認識らしかった。
「あれ、ゆうくんは?」
「先生に雑用頼まれて職員室」
雛は昼休みになると弁当を片手にやってくる。
クラスの男達も最初こそはざわついていたけれど最近ではすっかり慣れたらしく、遠巻きから様子を伺うだけになった。
「ふーん…あ、ねぇねぇ、今日も席借りるね!」
がたん、と音を立てて席をくっつけられる。声をかけられた佐藤はいいよと鼻の下を伸ばしていた。
返事するより先に自分の席が勝手に使われてるのにそれでいいのかと毎度の事ながら思う。
「スリッパ、借りたんだ」
「今日靴下白だからね、あのまま履いたら汚れちゃうから」
朝から職員室で借りたであろう少し大きめのスリッパ。本来ならば動きにくいだろうに、慣れているらしい歩き方だった。
「ゆうくん遅くなるのかな、先に食べちゃう?」
「雛は他に友達いないわけ」
「そんなのあきちゃんたちがいちばんよく知ってるでしょ」
何を今更、とでも言いたげなようにスン、と彼女の表情が無になった。
「私が仲良くしたくても無理だよ。嫌われてるもん」
「自覚あるんだ」
「さすがにあるよ」
気にしないけどね、と言って彼女は弁当を広げ出す。どうやら先に食べることにしたらしい。彼女に倣って自分もパンの袋を開けた。
「前は私だって頑張って友達作ろうとしたよ?
でもうまくいかないし。ゆうくんいてくれるしもういいかなって。今はあきちゃんもいるもんね」
「金田一はなんであんなに鈍いの」
「いや、ゆうくんは何も悪くないから。私が隠すの上手いだけ。余計な心配しないで部活頑張って欲しいからね。あきちゃんにはバレちゃってるけど、気にしなくて大丈夫だから」
彼女のこういうさっぱりしたところが友人として好ましいと感じる。めんどくさくない。と同時に、少しもやもやとした気持ちが残る。
(その割に、時折する泣きそうな顔はなんなんだよ)
強がる彼女
そう言い聞かせてるだけなんじゃないの、とは言えなかった。