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名探偵コナン×銀魂






アメリカ、イギリス、ロシア、ドイツ、フランス、そして日本。
世界各国の警察組織が協力体制を敷いて、長年見つけてきた黒の組織の拠点を一斉に制圧した。
組織幹部のほとんどがそこで死を迎えた。
しかし逃げ果せる者もいた。
その中の1人がバカルディだ。
人間離れした身体能力を使って捜査官を何十人と殺害し行方不明となった。

代償は大きかったが、世界規模の1つの犯罪組織が無くなったとなると芋づる式に組織に関わった人間も次々と逮捕されていった。
一時期はその後の対応にどの国も追われていたが、数ヶ月も経つと落ち着きを取り戻し、世界のあるべき姿を取り戻していた。

そんな中、バカルディの目撃情報が上がった。
日本の栄えた街の路地裏、それも袋小路。
いつも空を見上げている。
数ヶ月、毎日のようにそこで空を見上げているらしい。
組織に潜入していた安室透の本名、降谷零。
彼筆頭の日本警察とFBIが合同でバカルディの確保に当たることとなった。

「絶対に前線に出るなよボウヤ」

「…うん。わかってるよ」

無線から流れた赤井秀一の声にコナンは更に気を引き締めて頷く。
かなりの我儘を通してもらっているんだ。
これ以上は望めない。
そもそもコナンがこの場にいるのは灰原から聞いたバカルディの評価を聞いたからだ。
殺人を日常の一部かのように実行する周りの評価と、灰原の組織で唯一姉の他に守ってくれていた存在、というのがどうしても結びつかないのだ。

「例え目の前で誰かが死んでも、負傷しても君は動くな。動くときは逃げる時だけだ」

赤井の言葉に付け足すように言ったのが降谷。
何度もバカルディと任務を共にしてきた男の言葉。
一人の女に対して大袈裟な対応と思うかもしれないがそれほど注意すべき相手。

「…ついたぞ。作戦通り、まずは伺う」

付近の住民の避難は済んでいる。
辺りを歩く通行人は全員捜査官だ。
ひとつの路地へ向かって降谷を筆頭に銃を構えて彼女の様子を伺う。

「佐室」

誰かの名前をバカルディが呟いた。
降谷はまさか、と目を見開く。
この距離からわかるのか。

「ん?田室…?んん…」

「はっ」

思わず鼻で笑ってしまった。
こんな時でも名前を間違えるのか。
部下達に待機を命令を出して銃を構えたまま1人でバカルディの前へ出る。
巨大なゴミ箱の蓋の上に座って傘を開いている。
いざという時のためにスナイパーも配置されているがバカルディ相手にどこまで通用するかわからない。
久々に見たバカルディはやつれていた。
頬は少し痩けて真っ赤なチャイナドレスは少しだけ汚れている。逃亡生活のせいか。

「聞いたよ。警察らしいね。ギンが物凄い顔で殺してやるって言ってた」

こちらを見ずに、いつも通り話す。
ギンってもしかしてジンのことか?
無言を貫くと彼女の顔がやっとこちらを向いた。

「その様子じゃビンは捕まってないんだね。よかったよ。恩人だからね」

恩人。
そんな関係だったとは知らなかった。
彼女は再び空を見上げる。

「大人しく投降してくれ。今のお前と銃撃戦になるのはなるべく裂けたい」

「あぁ…そうだね。でもここに居たいんだ。あと数日。それじゃダメ?」

「もちろん」

わかっていたはずの答え。
バーボンとも安室透とも違う口調に、チラリとこちらに目線を寄越して軽くため息を吐いただけで再び空を見ていた。
降谷こそため息を吐きたいのを抑えて理由でも聞くことにする。どうしてここまで頑ななのか。

「何故この路地だ」

「…やつに拾われた場所だから。ここにいたら家に帰れるんじゃないかって期待するんだ」

バカルディは時々記憶喪失かのような物言いをする。今のもここからジンに拾われる以前の記憶が無いように。

「それに、もうすぐ勝手に死ぬから。気にしないで」

「…は。自殺でもするのか」

「いや、自殺はイヤだな。ただの…老衰?」

「ふざけてるのか」

全く、と真面目な顔で言われて対応にも困る。
老衰なんて今の若い容姿で言われても信じられない。しかし、それ以外に相応しい単語を知らないようだった。

「とにかく、今連行するから暴れるなよ」

「わかった。子供もいるからね、血なまぐさいのは見せられない」

バカルディがゴミ箱から降りて近づく。軽い動作にも目を離さなかったが、血の気が引く感覚がした。
ここにいるのは部下だけで、コナン君は少し離れた場所の車の中で待機してもらってる。
どうしてわかったのか。

「子供の匂いがするから」

それだけしか言わず、構えてる拳銃に触れるかの距離まで来て止まった。
彼女が本当に何もする気がないらしい。
銃を下ろして手錠を出す。
さしてた傘を閉じて両手を出して大人しく手錠される。

「手錠はかけた。来い」

すぐに撃てるように素早く囲まれる。
そのうちの2人に傘を持つように言う。
1人でも十分と感じたようだが、バカルディから受け取った傘は見た目より遥かに重い。
辛うじて落とさなかったが、全身を使って耐えている。慌ててもう1人が補助に入りやっと普通に持ち上げられた。

「行くぞ」

「ゴホッ」

数歩進んだ所で、バカルディの咳で止まる。
早く歩けと部下に急かされるが、咳が中々止まらない。
長い咳に声をかけようとした時、彼女の身体が崩れ落ちた。咄嗟に支えるが、まだ咳は止まらない。
服の下から感じる体温はとても冷たい。
演技にしてもおかしい。長すぎる。

「医療班と救急車を呼べ!」

生理的な涙が浮かんでおり、呼吸も整えられずかなり苦しそうだ。

「死ぬって、これのことか」

白を通り越して青白い肌、痩せた身体。
自力で立てない姿。
今まで病弱さなんて微塵も見せなかったのに。

「病院は、ゲホッ…止めた方がいい。私が化け物って、わかるだけだよ」

化け物、それは何を指している。
並外れた力のことを示しているのか。
冷たいコンクリートに横にされて、呼吸が安定してくる。こんな時でも空をどこか物寂しげに見ていた。

「この曇り空がそんなにいいですか」

「…うん。曇りか雨じゃないとこうやって空を拝めないから。古井はきっと晴れた空が好きそうだ」

「降谷だ。降谷零。早速間違えるな」

「…あだ名は?」

「ゼロ」

あだ名で覚えられるものなのか。
何度か馴染ませるように名前を呟いていた。
やがて到着した救急車に担架で固定されて運び込まれる。手錠をしているとは思えないほど穏やかな顔だったのが、どうしてか忘れられなかった。






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