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名探偵コナン





ミヨと予定を合わせてあの喫茶店に、今日行けることになった。休日だったこともあって遅めのお昼に待ち合わせをしてその間昼食を食べに行く予定だ。
オシャレして行くのは初めてで、いつもは学校帰りとかに軽食だけ食べるからある意味新鮮だ。

「いらっしゃいませ」

安室さんの声に、ソレらがいない安全地帯だと思ってホッと気を抜いたのが間違いだった。
安室さんの近くに立つ、ピシッと決めたスーツの男の人。額からは、映画で見るような穴があり、血が顔を伝って白いシャツに染み込んでいた。

「ひっ」

目を、合わせてしまった。反応してしまった。
驚いたソレは私に慌てた様子で手を伸ばしたが、誰かの手に引かれてあと数センチのところで届かなかった。

「大丈夫?顔真っ青だよ…?」

ミヨだった。

「だ、いじょうぶ。ちょっと貧血かも」

「最近貧血なること多いね。休んでいっぱい食べよ!そしたら元気になるはず!」

うん、と頷く。そんなに顔色悪いのか、安室さんはゆっくりと私の背中に手を添えて席へ誘導させる。なにこのイケメン。紳士すぎる。
席ついた瞬間にテーブルに突っ伏す。
うろたえるミヨにすぐに治るよ、と安室さんが持ってきた水をちびちび飲みながら言うと少しは安心したらしい。ハムサンド6人前頼んでた。私の分の1人前込みで。
呼吸が楽にできるようにテーブルの端へ腕枕をして目を開ける。目の前の存在に身体がビクッと震えた。いるのだ。あのスーツの男が。額から生々しい血を流して、至近距離でこちらの挙動を一切見逃さない鋭い目で睨んでる。
身体が震える。歯を食いしばって、口をキュッと力を入れて結んで耐えようとする。それでもコレに視える存在というのは伝わってしまったはず。これからどうなるのか。自分の未来が終わった絶望に涙が服に落ちてシミを作る。

『す、すまん!!泣かないでくれ!君に何もしない!!約束するから、どうか!!』

「………え、?」

テーブル下の狭いスペースで必死に土下座。
意思疎通が普通にできる。そして今まで会ったヤツらよりも人間味溢れたその姿に涙は止まった。
止まったのをいいことに、証拠隠滅とばかりに腕枕していた服に目元を押し付けて涙を拭いた。今日化粧してなくて良かったよ。

「ハムサンド6人前です。取り分けるお皿はこちらで使って下さい。先程より顔色いいみたいですが貧血は大丈夫ですか?」

「あ、はい。もう大分良くなりました。ありがとうございます。カフェオレも注文追加でお願いします」

「私はオレンジジュースで!」

わかりました、と笑顔を見せた彼はやっぱりイケメンだ。イケメンを目の保養にしていたいけど、この人?をとりあえずどうにかしなきゃ。
大きめの皿に綺麗に盛り付けられたサンドイッチの1つを取り皿に分けて一口ほおばる。うん。相変わらずの美味しさ。

「飲み物お持ちしました」

「ありがとうございます」

美味しいと全身で表現するミヨの前にオレンジジュースを、私の前にカフェオレ…?あれ、これカフェオレじゃないよね。
私の疑問と困惑に人差し指を立てて安室さんは微笑む。眼福です。ありがとうございます。

「貧血時に紅茶やカフェインはお勧めできないので、ホットミルク蜂蜜入りに勝手ながら変更させていたたきました。以前ポアロでホットミルクとハニートーストのご注文があったので苦手ではないと思いますが、ぜひ飲んでみて下さい」

苦手でしたら違うものと取り替えます。もちろんお節介なので僕からのサービスで。去り際にパチンとウィンク。
こ、この、イケメンがぁぁぁ!!!

あっという間にサンドイッチを平らげてデザートまで食べる余裕のあるミヨの姿に、注文を受け付ける安室さんも僅かに笑顔が引き攣ってる。

「あー!!美味しかった!まだお腹六分目だけどこれからお散歩だからこれぐらいがいいよね!」

「うん。動いたらお腹痛くなっちゃうかもだし」

幽霊のおじさんはまだポアロにいる。
もしかして安室さんの周りに集まれないのは悪霊とか悪い幽霊だけなのかもしれない。

「あ、ミヨちょっと待って。お会計の前にお手洗い行ってくるね」

「行ってらっしゃーい」

幽霊に手招きをして呼び寄せる。
トイレの便座に座ってソワソワ待っている。ドアから透過して来られるのには体が勝手に驚く。けど私がトイレに呼んだからか、恥ずかしそうな素振りをみせてドアに体半分埋まった状態で止まった。

「…安室さんに、取り憑いて私に何の用ですか?」

『取り憑くッ…!やっぱりそんな表現だよな。ふる、じゃない安室さんに渡して欲しいものがある』

ふる、に首をかしげた。だが渡して欲しいものが神社にあると言われて唇を強く結んだ。
見えてから神社に行ってない。けど神様も、もしかしたらいるかもしれない。神様のお家でコソコソするって、大丈夫なのかな。いや神様だからこそちゃんと挨拶すれば大丈夫なのかな。

『賽銭箱の下、手入れれるぐらいの隙間がある。そこに隠した。黒のアタッシュケースで6桁の鍵付き。鍵は解除しなくてもふる、っじゃない。安室さんが知ってる』

かなり重要そうなアイテムの発見を任されてしまった。あとなんだろ。さっきから、ふる、って言いかけてるの。地味に気になる。

『俺はふっ、安室さんから離れられないから近いうちにでも安室さんに渡して欲しい』

「…わかりました。あなたのお名前は?」

『遠藤。遠藤庄司』

「遠藤庄司さん。い、今から取ってきます。じゃなきゃ、怖くて行けないから。頼まれた、今のうちに」

体が震えて、さっきまで収まってた涙まで出てきた。ポジティブに考えよう。神社だよ。神域?だからきっと悪いものはいないはず。そしてポーカーフェイスを忘れずに。
涙をトイレットペーパーで拭うと目の前で何かが勢いよく振り下ろされた。遠藤さんの頭だ。こんな子供に頭を下げる姿に慌てる。

『私の失態で護るべき日本国民を泣かせて、巻き込んで…本当に申し訳ありません!』

「えぇッちょっと頭上げてくださいよ」

『私の任務だったのに、任せて下さった降谷さんに顔向けなんて出来るはずもないのにこうして何も出来ない非科学的根拠の無い存在に成り下がってまでッッ!!』

なに。日本国民を守る?この人警察?任務って何か危ないドラマでよくある潜入捜査とか?さっきまで言いかけてたふる、って降谷さんのこと?でも安室さんと降谷さんの関係が全くわからない。
え?名前呼び間違えるって、安室さんが降谷さんってこと?でももし安室さんが降谷さんって警察だとして、喫茶店でバイトまでしてなにが知りたいの?

「だめだ。考えてもわかんない」

コンコン。

「大丈夫?お腹痛い?もしかしてまた貧血?」

「あ、ちょっと電話あって。すぐ出るね」

トイレの外で待ってたミヨは私の荷物を持って渡してくれた。それに感謝して受け取る。
また顔色が悪くなったのか、安室さんが心配するがこれから来るであろう恐怖に比べたら今の体調なんてなんでもない。
そう。安室さんから離れれば、そこはもうどこでも恐怖対象が存在する世界だから。






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