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名探偵コナン×銀魂






遠い昔、自分の背中を追いかけてくれた弟と妹の姿が蘇る。自分と同じ赤毛で、まだ小さな子供だった頃。
私を慕って見上げてくる顔はどんな表情だったか。
どんな目の色で、目の形や鼻の形はどうだったか。父と母どちらに似ていたのか。それさえ今ではもう思い出せない。
ただ、私と同じ大食感だったはず。
家計が火の車だったのは覚えてるから。
父さん、母さん、神威、神楽。
それは思い出せる。でも、私の名前はなんだったかな。もうずっと呼ばれることはない。

「仕事だバカルディ」

バカルディ。それが今の私の呼び名。
仕事と伝えに来たこの男の名前は…。

「ギン?」

「ジンだ。いい加減覚えろ。何年一緒にやってる」

ため息吐かなくてもいいじゃん。
彼は自分の後ろを親指で指した。彼の後ろを覗くと金髪ガングロの男が立っていた。

「バーボンだ。お前に名前覚えろって言っても無駄だからな。顔だけでも覚えとけ」

「初めまして。バーボンです」

「バカルディよ。ジオ、私お腹空いた」

「ジンだ」

ジンがこんな馬鹿げた間違いに殺そうとしないのもとても珍しかった。ここ数年ジンの所業を見てきたバーボンは彼女との親しさに顔には出さないが驚く。聞きしに勝るものだ。

「ウォッカに飯炊かせてた。あとはてめぇで食べろ」

「さすが。ありがと」

ルンルンとスキップでもしそうなほど上機嫌で歩いて行った。いいか、とジンが切り出してバーボンはそれを組織からの新しい命令だと思い聞き耳を立てる。

「あいつに飯を奢るな。行くとしても大食い専門店だ。あと作ってやろうなんて気は起こすなよ」

「……はい?」

笑顔で聞き返した。ジンも心底迷惑とでも言うように睨み付けて言ったからな、と念押しまでしてバカルディとは反対方向へ去って行った。
とりあえず、バカルディの後を早足で追った。
ウォッカがご飯を炊く…部下だとしても幹部によくそんな縁遠いことをさせる。
バカルディはかなりの大食感らしい。
というのは組織で広まっている噂の1つ。
数年も組織を支える幹部としては有名で、必ず成功させたい暗殺に、あの方とやらはバカルディを使う。それはジン自身の言葉だから確証はある。

「…う少し……んで…え」

微かに聞き取れた声の主はすぐにわかった。ウォッカだ。蛍光灯の明かりに照らされて部屋のもの寂しさを映し出すが、それよりもありえない光景を目の当たりにして部屋の入口で固まる。

「美味しいお米。ウォッカの美味しい」

「いや炊くぐらい誰だって変わらないですし、ちょっとでいいんで噛んで下せぇ。飲み物じゃないんですぜ?」

そう。飲み物じゃない。だというのに、目の前の女は普通に炊いたであろう米を釜から直接飲むようにかきこんでるのだ。
本当に飲んでるのか?噛む一拍の休みもないぞ。

「バーボン、何かあったか」

ウォッカに気付かれた。いや、いつまでも入口にいたんじゃ気づかない方が無理がある。咄嗟に笑顔を貼り付ける。引きつってないかこの笑み。

「いえ、ジンが気になることを言っていたもので少し確認だったんですが、納得です」

「あぁ。バカルディのことだろ。米さえ炊けたらアジトに居る時の飯には困らねぇ。だが問題は、」

「外食」

やたら食べ放題を進めるわけがわかった。この調子だと出禁になってる店もあるんじゃないかとも疑える。それにしても炊飯器何個分あるんだ。

「実は食い放題でも出禁になってるとこあってな。残飯処理で行くならなんら問題ねぇらしいが、まさかコイツの食費だけで月あんだけかかってるなんてな」

グラサンで隠れているがどこか遠い目をしているように感じる。これが一食だと1日だけでいくらだ。良くて1万以内か…?

「卵かけご飯が食べられるなんて、こんな贅沢なことはないよ」

うっとりと、バカルディは卵を次々と割っては釜に入れていく。おい1パック以上空いてるぞ。醤油をドバドバ入れて物凄い勢いで掻き混ぜ、先ほど同様に飲み込み始める。その細い体のどこに入るんだ。

「……ちなみに今炊いたお米の量は」

「…二升」

「にッ…!!」

「今はまだ水洗いしない米使ってるからいい。ちょっと前まではキツかった」

二升とは、20合のこと。そんな量を毎日何度も用意するとなると地味に大変なはずだ。

「それなりに上がってきたヤツらにやらせたら毒盛ったとかで何人もコイツに殺されて、結局俺だ」

「……お疲れ様です」

「ほんとな」

そうだった。これでも幹部だ。ウォッカと平和な会話してたから気が少しか抜けた。気を引き締めたと同時にご馳走様でした、と食後の挨拶が聞こえた。





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