USJ
オールマイトを殺そうとする、脳無、黒霧そして主犯格の死柄木と呼ばれた男。
オールマイトの強さを一番知っているはずなのに、一番心配そうに見ている緑谷出久。その様子を横目で見て確信する。主人公なだけあってやっぱりオールマイトと繋がりがあるんだと。
突然、緑谷が飛び出す。
一瞬遅れてその腕を掴み損ねる。私に行くなと言っといて自分はいいらしい。そういうの、1番嫌い。
緑谷より脚は早い。緑谷に迫る黒霧との間に身を滑り込ませた。その直後、耳が痛くなるほどの爆発音。
ドォンッ!!
「どっけ邪魔だクソアマ!!!」
爆発とともに現れた爆豪が黒霧を掴まえた。
爆豪だけじゃない。
「てめェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
パキリ、と脳無の半身が凍り、
「だぁーー!!」
雄叫びを上げて切島が死柄木を攻撃するが当たる寸前での所で避けられる。
「くっそ!!いいとこねー!」
「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!」
「平和の象徴は、てめェらごときに殺れねえよ」
現れたのは、爆豪、切島、轟だった。
「おー、やっと追いついたか。遅かったね」
煽りにも聞こえるレイの声。主に爆豪が手をボンボン爆発させながら怒鳴り散らす。黒霧に火の粉全部かかってる。被害が全部敵に行ってる光景にブフッと吹き出して、それにまた爆豪が怒鳴る。終わらない悪循環である。
「おい、大丈夫か」
「焦凍。ああ…よゆーよゆー!」
「いや、見えない」
確かにこの血塗れの姿だと見えないだろうけど。ほら、と何も問題ないように立ち上がって見せれば渋々といった様子で頷かれた。いや、なんで焦凍の許可いるの。保護者か。
爆豪がワープゲートの黒霧を拘束している。このUSJの出入口は抑えた。
爆豪の怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破する、というヒーローらしからぬ言動に死柄木は特に焦りを見せなかった。
「攻略された上に全員ほぼ無傷。すごいなぁ、最近の子どもは。脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」
轟に凍らされて全身ボロボロに崩れていたはずの脳無は、逆再生してるかのように再生していった。
「みんな下がれ!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな。脳無はおまえの100パーセントにも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」
脳無に標的にされた時の奴の攻撃スピードは尋常じゃないことを知っている。レイは咄嗟に爆豪の元へ駆けた。
一瞬で爆豪の腕を掴むと勢いよく引っ張って脳無の攻撃を寸前で避ける。が、衝撃波が2人を襲う。
その衝撃波からも遮るようにオールマイトが目を前に現れ、レイは好機を逃さずに爆豪とともにその場を離れた。
それは一瞬のことだった。
「かっちゃんに治田さん!?よっ、避けたの!?すごい…!」
「違えよ黙れカス…つかクソ足女、てめェ見えたんか」
「当たり前よ。でもオールマイトに助けられた」
指差す先には、衝撃波をくらったオールマイトがいた。
「加減を…知らんのか」
「仲間を助けるためさ、しかたないだろ?さっきだってホラそこの…外人女。あいつが俺に思いっきり殴りかかって…いや、蹴りかかってきたぜ?他が為に振るう暴力は美談になるんだ、そうだろ?ヒーロー?」
「蹴りかかったのか?」
『うん。思いっきりやったわ』
轟に問われてもレイは全く動じない。
「俺はな、オールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ、善し悪しが決まる、この世の中に!なにが平和の象徴!所詮抑圧のための暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺すことで世に知らしめるのさ!」
「そういう思想犯の目は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」
「バレるの、早…」
にやりと死柄木が笑う。
殺気が膨らみ、レイ達は構えた。
「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!」
「ダメだ!!逃げなさい」
「…さっきのは俺がサポートに入らなけりゃやばかったでしょう」
「オールマイト、血…それに時間だってないはずじゃ…、」
時間…だめだよ緑谷それ言っちゃいけないやつじゃないのか。あっ、て顔するな。そもそも声に出して言うなクソ野郎。
「それはそれだ轟少年!ありがとな!しかし大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!」
真正面からの殴り合い。
凄まじいパワーとパワーのぶつかり合いで生まれる衝撃波と爆風の連続。思わず後ろにひっくり返りそうになったところを切島に支えられた。
彼の目は、オールマイトに釘付けだった。
「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!敵よこんな言葉を知ってるか!?更に向こうへ!!Puls ultra!!」
最後の一撃で、脳無はUSJの高い屋根を突き破り、場外に飛んでいった。
「漫画かよ。ショック吸収をないことにしちまった。究極の脳筋だぜ」
「デタラメな力だ…再生も間に合わねえほどのラッシュってことか」
「やはり衰えた。全盛期なら五発も打てば十分だったろうに、三百発以上も撃ってしまった。さてと、敵、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を。全然弱ってないじゃないか!あいつ…俺に嘘教えたのか!?」
「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言ってたが…出来るのものならしてみろよ!!」
なんだ。
なんだこの違和感。
勝ったのはオールマイトなのに、この嫌な感じ。嫌な予感…?
なんでだ。どうして。敵が残ってるから?いや、違う。違和感を探せ。急いで、でも冷静さを失わないようにして。
死柄木?違う。すごく苛立った様子で残ったチンピラ動かす様子もない。
なら黒霧か?それも違う。彼がワープゲートを広げて転送する様子も、その逆をする様子もない。
オールマイト…?そうだ。1番厄介な脳無はもういないはずなのに主犯格共がまだ自由の身だという違和感!あのセリフは、まさか虚勢?
そうだとしたら…!!
考えている時間は5秒にも満たない時間。
全て纏まった時にはもう駆け出していた。痛む全身の骨や筋肉、激しい呼吸をする度に突き刺さるような痛みまである。
「オールマイトは下がってて!!」
「なっ!逃げなさい!」
敵と、オールマイトの間に入り込む。オールマイトから怒りの声を貰うが、だったらその場から動いてから言って欲しい。やっぱり限界なんだ。
今はだけは、あと少し持つだけでいいから。だから頑張って私の体。そう心の中で叱責をしていつでも動ける体制に入る。
「ははは。じゃあお前から塵にしてやるよガキ」
「こちとら戦闘じゃクソジジイから一人前の称号貰ってんだよこのクソ野郎!!」
黒霧のワープを通して死柄木が手を転送させる。私を確実に殺せる位置へ。
「ッッださんから、離れろ!」
緑谷がまっすぐに飛んできた。
私を助けようとする動きなのは理解してるが、その足折れてまで必要な手助けじゃない。むしろ足手まとい。現にいい格好の的で、標的を私から緑谷に変えて死柄木の手が今にも頭に触れそうだ。
急いで緑谷の首根っこを掴んで後ろへ引き、死柄木の顔面歪める勢いで足を振るう。
しかしワープから引っこ抜いた手で私の足を掴んだ。五本の指で。
さっきは、個性効かなかった。なら今はどうだ。ほとんど博打だ。
「、なんで崩れないんだ」
「ん?…運?」
「そんなものに左右されないんだよ!」
瞬間だった。
何を思ったのか私をワープに引きずり込もうとした死柄木の手に銃弾が撃ち込まれた。
離された足に何の異常もない。バックステップで緑谷を捕まえて更に下がる。
「ごめんよ、皆。遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!」
入り口に、教師陣がずらりと並んでいた。
今は副業が教師でも全員が現役ヒーロー。
死柄木からすれば、それはゲームオーバーの合図だった。
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