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昨日の詫びをしたいからと誘った昼食。
ざる蕎麦を持ってやってきた轟に目を剥く。

「え、今日も蕎麦!?」

「ああ。好きなんだ」

対してレイは今日も弁当だが中身は昨日と同じ品なんて一品もない。轟は側に置いてあるもう1つのランチバックに目がいった。
その視線に気付いたレイがどこか恥ずかしそうにランチバックのチャックを開け始める。

「いくら訓練とはいえ骨にヒビいってたってやりすぎだと思って。甘い物ってイケた?」

「ああ」

よかった、と安心して笑った姿に目が釘付けになる。おかしい。やたらとコイツの笑った顔が見たくなる。
だが取り出したケーキの豪華さに唖然。
どこのパティシエ職人が作ったケーキだ。謝罪にこんな豪華なケーキ買って持ってくるか普通。

「大したことなくてごめん!デザインから考えたかったのに作る時間あんまなくてこんなダサいのしか作れなかった!」

作った…?コレのどこがダサいんだ。これ以上どこに時間かけて作るつもりだ。
白いドーム状のケーキ。本当に謝罪のつもりなんだろう。『Sorry』と達者な字のプレートに書いてあり雪の結晶の形をしたものがあちこちに散らばってる。

「あ、この字飴で作ってるから全部食べられるよ」

「あめ…」

本当、料理人の方が天職な気がするな。
轟は礼を言ってとりあえず溶けないようにランチバックの中にケーキを戻した。

「もし今食べれなくてもバックにドライアイスたくさん詰めてきたから持って帰って」

なんか呆れた目で見られてるのは気の所為か。
黙々とご飯を食べ進めていると轟の方からなぁ、と話しかけてきた。首をかしげて続きを促す。

「お前の個性ってなんだ」

「…予想は?」

「身体強化系かテレポート。前者の方が確率は高いと思ってる」

身体強化はまだわかるけどテレポートか。1回だけ高速移動使ったからだろうな。けど、そう思ってくれるのは嬉しい。今までの努力が実ってる証。
しかし、ここで無個性だと打ち明けるか。
うん。轟ならいいかな。

「ちょっと長話聞いてくれる?重たい話。お昼全部潰れるかも」

「ああ」

「私、無個性なんだ」

「……はぁ?」

怒った顔しないで欲しい。本当のこと言っただけなのに!慌てて落ち着いて、と今日のスープを勧める。1口飲んで、美味いと言ってくれて…じゃなくて。

「私ね生まれた時からの記憶あるの。母親は産んですぐに死んじゃって、父親は無個性って分かると養子に出した。それが最初の記憶」

初めは頭おかしいんじゃないかコイツ。みたいな顔してたのが重い話になってきて真剣な眼差しに変わる。
この子結構表情変わるよな。そこまで動かないから本人はバレてないとか思ってそうだけど。

「それ知った母親の母親。コレ後で聞いた話なんだけど祖母が父親に激怒して、問い詰めた結果個性婚って分かったんだ」

「個性婚…」

「知ってる?」

「ああ」

なんだか思い詰めたような顔してる…?
話終わったら聞いてみよう。

祖母は身体が不自由だったから親友に私を引き取ってもらったらしい。その人が今の育ての親。金輪際父親は私に近づかない契約を育ての親としたって。
だから顔も覚えてないのそんな男。
育ての親、カマさんっていうんだけど、カマさん料理人で自分のお店持ってる店長なの。その仕事のお陰か日本より世界中旅してる方が長くて色々な場所で鍛えさせてもらったよ。
憧れの人がいたからね。
この社会って個性持ちからしたら快適なんだろうけど無個性からだと生きにくい社会なんだよ。
初めての親友は無個性で、周りから虐められて阻害されて、自殺したんだよ。
その時思ったんだ。私があの人みたいに力を持って証明出来たら多少は変わるんじゃないかってね。
残念ながら世界は優しくないから私が動かなきゃ変わらないだろ?そして無個性が本当は個性持ちより強いんだって、世界初無個性ヒーローになって証明したいんだ。
こんな理不尽な世の中もあの人みたいに強くなれたらってずっと考えて生きてきた。今もね。

「ごめん。暗いよね。ご飯食べちゃお」

「前、」

「ん?」

「言ってたよな。今は幸せだって。本当か」

些細な会話覚えてもらえるって結構嬉しい。
うん、と頷く。笑顔が自然と浮かぶ。彼といると嬉しいこと沢山あってよく笑えるなぁ。

「こんな話聞いてくれる友達もすぐにできるし、毎日忙しいけど好きな料理もできるし、ヒーローになるための訓練も勉強もできる。それって大変だけど、凄く幸せなことなの。…焦凍?」

少し、顔赤くなってない?
それを訪ねる前に学校に警報音が鳴り響く。セキュリティ3ってなんのこと。
生徒が避難の鉄則も忘れて出口に密集してる。

「俺たちも避難するぞ」

「え」

席を立った轟に手を引かれてあの密集地に連れられる。いや、待って、苦しい、暑い。

「えっ焦凍!?」

しっかり繋がれていたはずの手の間に誰か入り込み、焦凍の姿はあっという間人の波に埋もれていった。その様子に寒気がした。魔境にでも来た気分。最悪だ。
誰かの足に引っかかった状態で背中を強く押された。きゃっなんて女らしい声を出して前の人の背中に抱きつくように倒れ込んだ。
そのまま背中から押してくる圧力は変わらず、息苦しさは増すばかり。ごめんなさい目の前の黒髪の人。

「ごめんなさい!今退けるからッ痛い!!」

足蹴られた。その足に何か鋭いものが引っかかって擦れる。

「だ、大丈夫、ですか」

「ん、血が…」

手を当ててみると結構な血の量がつく。
その手が見えたのか黒髪さんが息を飲んで私の体に腕を回して自身の前へ持っていく。
すぐ横の壁に手を着いて守ってくれる彼のおかげで圧迫感からは逃れられた。少しだけ高い位置にある目を覗くと怯えたように視線を逸らされるが、また人に押されたのか。手を着いた状態から肘を壁に着く状態になる。
これが壁ドン。
一気に抱き着かれるような形になって顔が赤くなっていくのがわかる。

「あの」

ビクッと過剰に反応される耳元で直接話すような形になったからかもしれない。

「ありがとうございます。今すごく力いれてますよね。お陰様で苦しくないです」

「ッそ、れは、ょかった、」

誰かに守ってもらえるなんて何年ぶりかな。
すごく安心するなぁ。

「皆さん大丈夫!!ただのマスコミです!!」

飯田の声は上から聞こえる。非常口の電灯の上にこれまた非常口のようなポーズで落ち着いてと呼びかけてる。その声に冷静を取り戻した様子の生徒はゆっくりと席に戻っていく。
目の前の彼も生徒の圧力が無くなると素早い動きで離れて何故か壁と向かい合わせになっていた。

「だめだ…1年の有名人にこんなことして…きっと今見てた人達が俺の事睨んでセクハラ野郎って思ってるはずだぁ……」

「oh...」

あの見た目に反して凄い小心者だ。ギャップがありすぎて驚きが凄まじい。でもお礼はちゃんとしないと。あの、と声をかける。ビクッ!と大きく反応される。この人、なんか可愛い。

「助けてくれてありがとうございます。私レイです。学年と名前教えて下さい」

「…ヒーロー科3年、天喰環」

先輩だったのか。そしてヒーロー科の。
視界の端に見えた赤と白の目立つ髪色に手を振り、目の前の先輩に一礼する。

「明日お礼の品持っていくので教室で待ってて下さいね環先輩」

返事も聞かずに身を翻して走る。言い逃げである。え、と驚く声が聞こえた気がしたが気の所為ということにしておこう。





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