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結局あれから誰とも話すことはなく昼休みになった。
自信作の手作り弁当があっても、教室に残って楽しそうに話す彼らの姿にレイは居心地悪く感じて、弁当を持って食堂へ足を運ぶ。

食堂はかなり賑わっていた。
人に溢れて、座る席をみつけるだけでも一苦労だ。

キョロキョロしていると前髪が落ちてきて大変だが、それを手で押さえながら探す。
一つだけ、見つけた。
4人がけテーブルなのに1人で食べている同じクラスの男子がいた。車3つ書く漢字の名字で髪が紅白の男子。
レイは真っ直ぐその席に向かう。

コンコン、とテーブルをノックしてこちらに注意を向けさせる。左右違う色の瞳と目が合った。

「ごめん、誰かココ座らないんだったら私座ってもいい?」

「…ああ」

「ありがとう!」

サッと席に座って弁当を広げた。弁当箱の中身はどれも弁当に似つかわしくないものばかり。スープも入れ物から開けて漂ってきたいい匂いを楽しむ。

「それ、大変そうだな。作った人」

蕎麦を食べていた手を止めて手元の弁当のおかずを目移りさせて話した。少し、以外。人に興味がなさそうだったから。
大変そう、と称された弁当を見下ろす。うん。確かに品数は多いし一見豪華そうだし。確かに、と頷く。

「自分で作ってるけど、楽しいの。料理してるのが。だから大変って感じない」

いただきます、と手を合わせて彩りにあふれた野菜を一口食べる。うん!今日もいい出来上がり!満足して他の物にも手をつけていく。
帰ってこない返答に顔を上げてレイは驚く。箸で蕎麦を摘んだまま目が合ったから。

「…なんでこの学校にしたんだ?料理が好きならそういう学校が」

「あったとしても、今したいことをする」

言葉を引き継いで断定した。そう。料理は好きだ。料理こそ私の人生だったから。でも、それ以外の道が今はいくつもある。そして決意だってしてここまで来た。

「今、すごく環境に恵まれてるから、ヒーローの学校も料理の勉強もできるんだ。それで満足してるからいいの!」

納得してなさそうな顔。
本当に以外。他人の事情なんてどうでも良さげな、つまらなさそうな顔で教室にいたのに。
何か言いかけて空いた口にメインディッシュを突っ込んだ。自信作を味わって止まった目の前の男に内心焦る。
どっちの反応だ?美味しい?それとも不味い方か?この男分かりにくくて心臓に悪い!!

「美味い」

ぽつりと、聞こえるか聞こえないかの声。
それでも味を賞賛する声に自然と、この学校来て初かもしれない満面の笑みが浮かぶ。
その笑顔を見て、目の前の男が目を丸くさせた。そんなことは気にせずに、今日の仕込みは完璧だ、と喜ぶ。
轟は密かに思う。やっぱり料理の事になると顔が違う。どうして好きなものを目指さないのかわからない。

「あの、言いにくいけど、名前の読み方教えてほしい」

急に、照れながら言われた意味を一瞬考えた。
普通に日本語話してたけど、こいつ帰国子女で向こうに居た期間が長いという噂があったのを思い出した。

「とどろきだ。車3つ書いて轟。下の名前はしょうと」

「轟焦凍か。うん覚えた。私の名前はレイチェル・V・治田。レイって呼んで焦凍」

笑顔で差し出された手を黙って見つめた。
保湿はしてるんだろうが傷だらけの手。握ればすぐにわかる豆と、女には似つかわしくない硬い手のひら。小さい頃から努力してきた手。
それだけだが、好感が持てる。

「午後のヒーロー学いっぱい食べて頑張ろう!」

頷き、離された手に残る温もりに、少し擽ったいような気持ちが沸き上がるが、昼飯を食べるのが先だとその感情を無視した。





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