1.始まり
夢小説設定
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ぎゅ、とフードを握り目深に被りなおす。
「もちろん、答えたくないというのであれば構いません」
「……さっき、『症状的には』とか言ってましたよね。知ってるんじゃないですか」
前髪の隙間から彼を見る。糸織さんはぱちぱちと数度まばたきをしたあと「そうですね」と言葉を置いた。
「ある程度は。だからこそあなたはここに来た」
彼はそれだけを言い、資料に視線を落とす。
「ここは、そんな神様だったり、常識では測れないようなものを扱うところです」
ぶつぶつと何か言葉を続けたようだったが聞き取れなかった。櫻木さんなら聞き取れたのだろうか。そちらを見ると、どこか翳りのある表情でそっぽを向いていた。
LEDが眩しい。地下の静けさが嫌に強調される。
時間が止まったかのような空間に、部署が一瞬で様変わりした。
「なので主任がいないのは、大目に見てください。ね?」
ころりと糸織さんが表情を変える。最初に見たような、いや、あれよりも少し幼いだろうか。小さく眉を下げて笑っていた。
「あまり暗い雰囲気は好きじゃないんですよね、ごめんなさい。少し、我々はそういったものと縁がありまして。だからこそここにいるんですけど」
立て板に水を流したように話す彼に、一瞬呆気にとられる。
「あなたは、我々警察が保護をしたほうが良いと考えた人物なんです。ただ置いておくことは難しいという上のお達し上、軽い業務や情報提供はしてもらうことになりますが……」
「ああ、はい……」
曖昧な返事が口から出た。
簡易的な業務をしなければならない、というのもここに来るにあたって聞いている。保護の話も聞いていた。
そこからは設備の話や詳しい勤務体系の話になった。あれ以上変な雰囲気になることはなかったが、一度だけ、また空気が揺れた場所がある。
「あの奥の扉は資料室に繋がってます。本とか、おかしなものが置いてあるので行くときは気をつけてください。というかできれば誰かと一緒に入ってくださいね」
「本、なのにですか」
「ええ、ただの本じゃないので。さっきのようなものが関わったであろう事件や、その生物の資料、または……いわゆる魔法の本を置いているんです。今から言うのでどこに何があるのか、おぼろげにでいいので場所を覚えてください」
随分無茶を言うと思った。
魔法の本。そう言ったときに二人の表情が少しこわばったのは、また何かあるのだろうか。少しばかり邪推した。
魔法が使えるのだろうか。
「……こんなところかな」
ようやく終わったらしく、糸織さんは資料を机に置いて首筋擦る。
「お疲れ様でーす」
「……」
「なんすか。ちゃんとここにいて話聞いてただけ褒めてください」
「そうだね、君ならそうなだけ花丸だね。疲れさせないでくれ」
「はぁ?」
口論が始まりそうな雰囲気に、もしかしたらこの二人は仲が悪いのかもしれない、なんて考える。
「まあいいや。夢崎さん、なにか質問とかはあるかな」
そう問われてとっさに頭に浮かんだのは、ここで勤務しているメンバーだ。先程説明では私を除いて七人と聞いた。デスクの数も一致するしそうなのだろう。
基本的にバディシステムを採用しているということで、誰と組むことになるのか、それが少し疑問だった。
それを伝えると糸織さんは快く答えてくれる。
「君には巡査部長の子と組んでもらうことになってる。背が高い男性の、もともと生活課にいた子だ」
「あー、あいつ……あの、うるせえの……」
少し遠くを見て話す櫻木さんに、今度は糸織さんが脇を小突いた。
「悪い子ではないし、気さくな人だよ。あまり不安がらないでね。それにここはよくバディを組み替えるんだ。希望があればそれが通る可能性もある。何かあればきちんと言うこと」
基本は報連相だよ、と付け加えた糸織さんに礼と了承を伝えると、彼はにっこりと微笑んだ。
「そろそろ彼ら、帰ってくるんじゃないかな。時間もいい具合だし」
「あー、もう昼っすか。話長い人って嫌っすね」
「必要事項を話してただけだが」
「頭かったぁ……コレだから……」
「あの、お二人ってバディなんですか」
隙あらば喧嘩する雰囲気を醸し出す二人に思わず口を挟む。
少しの間の後に、櫻木さんが「そう」とだけ答えた。
「僕は何も言わないけどね、うん」
「それがもうすでになにか言ってんだよなぁ……」
「まあこんなんでも仕事はできるから」
困ったように糸織さんが笑った。
「もちろん、答えたくないというのであれば構いません」
「……さっき、『症状的には』とか言ってましたよね。知ってるんじゃないですか」
前髪の隙間から彼を見る。糸織さんはぱちぱちと数度まばたきをしたあと「そうですね」と言葉を置いた。
「ある程度は。だからこそあなたはここに来た」
彼はそれだけを言い、資料に視線を落とす。
「ここは、そんな神様だったり、常識では測れないようなものを扱うところです」
ぶつぶつと何か言葉を続けたようだったが聞き取れなかった。櫻木さんなら聞き取れたのだろうか。そちらを見ると、どこか翳りのある表情でそっぽを向いていた。
LEDが眩しい。地下の静けさが嫌に強調される。
時間が止まったかのような空間に、部署が一瞬で様変わりした。
「なので主任がいないのは、大目に見てください。ね?」
ころりと糸織さんが表情を変える。最初に見たような、いや、あれよりも少し幼いだろうか。小さく眉を下げて笑っていた。
「あまり暗い雰囲気は好きじゃないんですよね、ごめんなさい。少し、我々はそういったものと縁がありまして。だからこそここにいるんですけど」
立て板に水を流したように話す彼に、一瞬呆気にとられる。
「あなたは、我々警察が保護をしたほうが良いと考えた人物なんです。ただ置いておくことは難しいという上のお達し上、軽い業務や情報提供はしてもらうことになりますが……」
「ああ、はい……」
曖昧な返事が口から出た。
簡易的な業務をしなければならない、というのもここに来るにあたって聞いている。保護の話も聞いていた。
そこからは設備の話や詳しい勤務体系の話になった。あれ以上変な雰囲気になることはなかったが、一度だけ、また空気が揺れた場所がある。
「あの奥の扉は資料室に繋がってます。本とか、おかしなものが置いてあるので行くときは気をつけてください。というかできれば誰かと一緒に入ってくださいね」
「本、なのにですか」
「ええ、ただの本じゃないので。さっきのようなものが関わったであろう事件や、その生物の資料、または……いわゆる魔法の本を置いているんです。今から言うのでどこに何があるのか、おぼろげにでいいので場所を覚えてください」
随分無茶を言うと思った。
魔法の本。そう言ったときに二人の表情が少しこわばったのは、また何かあるのだろうか。少しばかり邪推した。
魔法が使えるのだろうか。
「……こんなところかな」
ようやく終わったらしく、糸織さんは資料を机に置いて首筋擦る。
「お疲れ様でーす」
「……」
「なんすか。ちゃんとここにいて話聞いてただけ褒めてください」
「そうだね、君ならそうなだけ花丸だね。疲れさせないでくれ」
「はぁ?」
口論が始まりそうな雰囲気に、もしかしたらこの二人は仲が悪いのかもしれない、なんて考える。
「まあいいや。夢崎さん、なにか質問とかはあるかな」
そう問われてとっさに頭に浮かんだのは、ここで勤務しているメンバーだ。先程説明では私を除いて七人と聞いた。デスクの数も一致するしそうなのだろう。
基本的にバディシステムを採用しているということで、誰と組むことになるのか、それが少し疑問だった。
それを伝えると糸織さんは快く答えてくれる。
「君には巡査部長の子と組んでもらうことになってる。背が高い男性の、もともと生活課にいた子だ」
「あー、あいつ……あの、うるせえの……」
少し遠くを見て話す櫻木さんに、今度は糸織さんが脇を小突いた。
「悪い子ではないし、気さくな人だよ。あまり不安がらないでね。それにここはよくバディを組み替えるんだ。希望があればそれが通る可能性もある。何かあればきちんと言うこと」
基本は報連相だよ、と付け加えた糸織さんに礼と了承を伝えると、彼はにっこりと微笑んだ。
「そろそろ彼ら、帰ってくるんじゃないかな。時間もいい具合だし」
「あー、もう昼っすか。話長い人って嫌っすね」
「必要事項を話してただけだが」
「頭かったぁ……コレだから……」
「あの、お二人ってバディなんですか」
隙あらば喧嘩する雰囲気を醸し出す二人に思わず口を挟む。
少しの間の後に、櫻木さんが「そう」とだけ答えた。
「僕は何も言わないけどね、うん」
「それがもうすでになにか言ってんだよなぁ……」
「まあこんなんでも仕事はできるから」
困ったように糸織さんが笑った。