1章「種」
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「僕に支援系の魔法をかけてもらえるかな。基本的にこれから精査する魔法は他人に対して大きな効果を持つ、ってことは君も知っていると思うけど」
「わかりました。でもその、あの……」
「? どうしたの?」
不思議そうな表情を浮かべてこちらを見るアレクさんに、自分の支援魔法の発動の仕方を思い出す。
「あの、私触らないとそういうの使えないみたいで……」
「大丈夫だよ。なんならシャットだってそういう使い方で──」
「素肌に直接触らないといけないんです……!」
そう、だからこの手の魔法はあまり使いたくない。だって他人に触らなきゃいけないんだよ!?
私はあまり人付き合いが得意ではない。それなのにこの魔法の発動条件は……うぅ……視界にいるだけで魔法が発動する、みたいな楽な発動方法ないのかなぁ。無詠唱だし陣もないから凄い難しいと思うけど……。
「ああ、えっとそんな事……って言っちゃったら失礼だよね、うん。ええと、君が気にしてるなら僕じゃなくてシャットでもいいし……僕でいいなら、ほら、手袋は外すから」
そう言ってアレクさんは左手にはめていたレザー手袋のボタンを外してみせた。そのまま引き抜くと透き通るような白い肌が出てくる。
「あんまり手袋外したくはなかったんだけどな……」
ぼそりと聞こえた言葉に、申し訳なさが込み上げる。
「すみませ……」
「いいから、気にしない。実は、君にはこのテストを無理にやらせる必要はないんだよね。ここまで色々なものへの適応が高いんだ」
どうする?
首をかしげてそう聞いてくる彼の声色は、表情はどこまでも優しくて。
「やります……!」
「わかった。じゃあやり方は任せるよ。さ、始めよう」
「はい。……手、失礼します」
差し出された左手を両手で握る。
隣に立つとわかる。意外と身長差がある……。そのせいだろう、手も大きくて、かわいらしいその振る舞いとは離れた硬い手だ。タコができてたり治りかけているけれど傷があったり……。
本当に一般人を守るためにある組織にいる人なんだ……。改めてそう感じた。そういえばシャットちゃんも筋肉がついてたり手が大きかったりした。やっぱり、私なんかよりもずっとずっと長い間戦ってきた人たちなんだ。
「ディアさん」
「は、はい! すみません今やります!」
「あんまり謝らないで。アイツらに馬鹿にされるから」
アレクさんの忠告を耳にしながら手に魔力を籠める。頭の中で術式を組み立て、触ったところからアレクさんに自分の魔力を流し込むようなイメージをする。そのまま詠唱すると、一瞬だけ視界が暗くなり揺れた。
「……すごいな、これ。結構強い……」
「アレク、大丈夫そうかにゃ?」
「ああ……ッ」
するりとアレクさんの手が私の手を離れる。右手で頭を押さえ、空いた左手は背にある剣を抜き取る。
「ベルト外しといてよかったかも……」
そうぼやくのと同時に彼は飛んだ。
本当に飛んだわけじゃない。飛んだように見えるほどの速さでかかしに向かっていった。一瞬にして遠くの的がバラバラに切り裂かれる。
その光景を私は……シャットちゃんも口を開けてみているしかなかった。
「アレク……今までで一番やにゃい? すごか……」
言葉を投げかけるシャットちゃんにアレクさんは何も返さない。ただ立っているだけ。
「アレク?」
「アレクさん……?」
「え、あ、何? ごめん、どうしたの?」
数秒後、振り向いて答えた彼は本当に困惑した顔をしていた。
「いや、なんも反応せんくなったから……どぎゃんしたと?」
「なんでもない。ただちょっと音が遠くなっただけ。……これはあんまり使わない方がいいかもね」
もうさっきまでと同じように歩き、話しているアレクさんはそのままシャットちゃんの隣に並んだ。剣は既に鞘に納められている。
「君の眼から見て『一番』ならそうなんだろうね。ただ──」
声を潜めてシャットちゃんに耳打ちするアレクさんと、それを受けて書き記していくシャットちゃん。
遠いし声も小さいから何を言ってるかは聞こえないけど……表情は少し険しくなっている気がする……。
なんかやっちゃったかな……。それにアレクさん、『あまり使わないほうがいい』って言ってたし……。
「お待たせ。次、回復魔法の適性を見ようか」
さっきの雰囲気はどこへやら、また初めの時の様になんてことない柔らかい表情で彼は戻ってきた。
「は、はい!」
考え事をしていた所為で声が上ずる。それを小ばかにしたように笑うわけでもなく、アレクさんは少し微笑んだ。
「自己評価ではどう? 使えるのかどうかとか、その方法とか」
「ええっと……弱めなんですけど使えると思います。小さい怪我を治したりとか、それくらいです。方法はさっきのとほとんど一緒です」
「ってことは対象者に触れてなきゃいけないんだね?」
「はい」
ふむ、とアレクさんは相槌を打つ。
(さて、どれくらいならこの人が治せないところか、治せるところかギリギリのラインになるかな……)
じっと考え込む彼をみて、シャットちゃんに目配せをする。彼女は肩をすくめ、その後にすぐ笑顔になり、腕で大きく丸を作った。グッドサインも同時に返ってくる。
大丈夫ってこと……?
「……なるほど、わかった。ひとまずやってみよう」
パッと俯けていた顔を上げて、こちらをすっと見つめてくる。
赤い瞳が真剣な表情を作り、剣をまた鞘から引き抜く。ぐっと隊服の左袖をまくり上げ白い腕を晒した。
そのまま彼は自分の左腕へ刃を打ち付けた。
「ぐっ、ぅ……」
ヒュッと喉奥が鳴る。ぞわっと首筋から頭のてっぺんにかけて神経が逆立った。
何してるのこの人!
アレクさんの腕から真っ赤な血が滴る。指先を伝って、地面に2、3滴ぽたぽたと……。
血の気が引いた、彼が切りつけたところと近い場所がうずく。
「アレク!」
「ああ、大丈夫だよ。これくらい軽い……軽すぎるほうだ」
シャットちゃんが叫んだ、それに元気だということを証明するように大声で彼は言葉を返す。最後の「軽すぎる」という言葉は小さかったけれど、私にはきちんと聞こえてしまった。
「さ、どうぞ。魔法を使って?」
本当に何てことなさそうに笑んで、彼は左手を差し出した。涼しげな顔で、肉がぱっくり裂けているはずなのに……。
恐る恐る血を避けてその指先に触れる。
「そんな少し触るだけでいいの?」
「あ、その……」
「腕、掴む? 上のほうなら血がついてないし」
だくだくと溢れる血に、こんなの私に治せるんだろうかとぼんやり思う。
確かに触れる面積が多いほうが効率的に相手へ魔法の効果を渡せるだろう、けど。
喉が鳴った。
「つかみ、ます……」
「じゃあどうぞ」
くっと腕を曲げ、触りやすいようにしてくれるところを見ると、本当にただ良い人なんだろう。自分を傷つけることに臆さず、慣れきった表情をしているだけで……。
片手で腕の上部を、もう片手で掌付近を掴み、ただ念じた。
この人の怪我が治るように。
だってこんなのおかしい。なんで慣れてるの、こんなの「軽い」の範囲じゃないよ。
死んじゃったら、腕が落ちてたらどうしたの。
じわじわ涙が込み上げてきた。
グッと手に力が入る。視界がまぶしくなって、体が熱くなる。
「……すごいな」
頭上からそう呟く声が聞こえた。
「わかりました。でもその、あの……」
「? どうしたの?」
不思議そうな表情を浮かべてこちらを見るアレクさんに、自分の支援魔法の発動の仕方を思い出す。
「あの、私触らないとそういうの使えないみたいで……」
「大丈夫だよ。なんならシャットだってそういう使い方で──」
「素肌に直接触らないといけないんです……!」
そう、だからこの手の魔法はあまり使いたくない。だって他人に触らなきゃいけないんだよ!?
私はあまり人付き合いが得意ではない。それなのにこの魔法の発動条件は……うぅ……視界にいるだけで魔法が発動する、みたいな楽な発動方法ないのかなぁ。無詠唱だし陣もないから凄い難しいと思うけど……。
「ああ、えっとそんな事……って言っちゃったら失礼だよね、うん。ええと、君が気にしてるなら僕じゃなくてシャットでもいいし……僕でいいなら、ほら、手袋は外すから」
そう言ってアレクさんは左手にはめていたレザー手袋のボタンを外してみせた。そのまま引き抜くと透き通るような白い肌が出てくる。
「あんまり手袋外したくはなかったんだけどな……」
ぼそりと聞こえた言葉に、申し訳なさが込み上げる。
「すみませ……」
「いいから、気にしない。実は、君にはこのテストを無理にやらせる必要はないんだよね。ここまで色々なものへの適応が高いんだ」
どうする?
首をかしげてそう聞いてくる彼の声色は、表情はどこまでも優しくて。
「やります……!」
「わかった。じゃあやり方は任せるよ。さ、始めよう」
「はい。……手、失礼します」
差し出された左手を両手で握る。
隣に立つとわかる。意外と身長差がある……。そのせいだろう、手も大きくて、かわいらしいその振る舞いとは離れた硬い手だ。タコができてたり治りかけているけれど傷があったり……。
本当に一般人を守るためにある組織にいる人なんだ……。改めてそう感じた。そういえばシャットちゃんも筋肉がついてたり手が大きかったりした。やっぱり、私なんかよりもずっとずっと長い間戦ってきた人たちなんだ。
「ディアさん」
「は、はい! すみません今やります!」
「あんまり謝らないで。アイツらに馬鹿にされるから」
アレクさんの忠告を耳にしながら手に魔力を籠める。頭の中で術式を組み立て、触ったところからアレクさんに自分の魔力を流し込むようなイメージをする。そのまま詠唱すると、一瞬だけ視界が暗くなり揺れた。
「……すごいな、これ。結構強い……」
「アレク、大丈夫そうかにゃ?」
「ああ……ッ」
するりとアレクさんの手が私の手を離れる。右手で頭を押さえ、空いた左手は背にある剣を抜き取る。
「ベルト外しといてよかったかも……」
そうぼやくのと同時に彼は飛んだ。
本当に飛んだわけじゃない。飛んだように見えるほどの速さでかかしに向かっていった。一瞬にして遠くの的がバラバラに切り裂かれる。
その光景を私は……シャットちゃんも口を開けてみているしかなかった。
「アレク……今までで一番やにゃい? すごか……」
言葉を投げかけるシャットちゃんにアレクさんは何も返さない。ただ立っているだけ。
「アレク?」
「アレクさん……?」
「え、あ、何? ごめん、どうしたの?」
数秒後、振り向いて答えた彼は本当に困惑した顔をしていた。
「いや、なんも反応せんくなったから……どぎゃんしたと?」
「なんでもない。ただちょっと音が遠くなっただけ。……これはあんまり使わない方がいいかもね」
もうさっきまでと同じように歩き、話しているアレクさんはそのままシャットちゃんの隣に並んだ。剣は既に鞘に納められている。
「君の眼から見て『一番』ならそうなんだろうね。ただ──」
声を潜めてシャットちゃんに耳打ちするアレクさんと、それを受けて書き記していくシャットちゃん。
遠いし声も小さいから何を言ってるかは聞こえないけど……表情は少し険しくなっている気がする……。
なんかやっちゃったかな……。それにアレクさん、『あまり使わないほうがいい』って言ってたし……。
「お待たせ。次、回復魔法の適性を見ようか」
さっきの雰囲気はどこへやら、また初めの時の様になんてことない柔らかい表情で彼は戻ってきた。
「は、はい!」
考え事をしていた所為で声が上ずる。それを小ばかにしたように笑うわけでもなく、アレクさんは少し微笑んだ。
「自己評価ではどう? 使えるのかどうかとか、その方法とか」
「ええっと……弱めなんですけど使えると思います。小さい怪我を治したりとか、それくらいです。方法はさっきのとほとんど一緒です」
「ってことは対象者に触れてなきゃいけないんだね?」
「はい」
ふむ、とアレクさんは相槌を打つ。
(さて、どれくらいならこの人が治せないところか、治せるところかギリギリのラインになるかな……)
じっと考え込む彼をみて、シャットちゃんに目配せをする。彼女は肩をすくめ、その後にすぐ笑顔になり、腕で大きく丸を作った。グッドサインも同時に返ってくる。
大丈夫ってこと……?
「……なるほど、わかった。ひとまずやってみよう」
パッと俯けていた顔を上げて、こちらをすっと見つめてくる。
赤い瞳が真剣な表情を作り、剣をまた鞘から引き抜く。ぐっと隊服の左袖をまくり上げ白い腕を晒した。
そのまま彼は自分の左腕へ刃を打ち付けた。
「ぐっ、ぅ……」
ヒュッと喉奥が鳴る。ぞわっと首筋から頭のてっぺんにかけて神経が逆立った。
何してるのこの人!
アレクさんの腕から真っ赤な血が滴る。指先を伝って、地面に2、3滴ぽたぽたと……。
血の気が引いた、彼が切りつけたところと近い場所がうずく。
「アレク!」
「ああ、大丈夫だよ。これくらい軽い……軽すぎるほうだ」
シャットちゃんが叫んだ、それに元気だということを証明するように大声で彼は言葉を返す。最後の「軽すぎる」という言葉は小さかったけれど、私にはきちんと聞こえてしまった。
「さ、どうぞ。魔法を使って?」
本当に何てことなさそうに笑んで、彼は左手を差し出した。涼しげな顔で、肉がぱっくり裂けているはずなのに……。
恐る恐る血を避けてその指先に触れる。
「そんな少し触るだけでいいの?」
「あ、その……」
「腕、掴む? 上のほうなら血がついてないし」
だくだくと溢れる血に、こんなの私に治せるんだろうかとぼんやり思う。
確かに触れる面積が多いほうが効率的に相手へ魔法の効果を渡せるだろう、けど。
喉が鳴った。
「つかみ、ます……」
「じゃあどうぞ」
くっと腕を曲げ、触りやすいようにしてくれるところを見ると、本当にただ良い人なんだろう。自分を傷つけることに臆さず、慣れきった表情をしているだけで……。
片手で腕の上部を、もう片手で掌付近を掴み、ただ念じた。
この人の怪我が治るように。
だってこんなのおかしい。なんで慣れてるの、こんなの「軽い」の範囲じゃないよ。
死んじゃったら、腕が落ちてたらどうしたの。
じわじわ涙が込み上げてきた。
グッと手に力が入る。視界がまぶしくなって、体が熱くなる。
「……すごいな」
頭上からそう呟く声が聞こえた。