1章「種」
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「あ、いた」
不意に頭の上から柔らかい、優しげな声が降ってきた。
「アレク!」
すっくと立ち上がってシャットちゃんはその声の主に向かって声をかけた。
アレク……?
顔を上げるとすぐ目の前に、茶髪で左目を隠した童顔の男の子が立っていた。晒された赤い目の瞳孔はシャットちゃんのような猫目。大きな剣を背負ってる……。
彼はふわりと優し気な笑顔をこちらに向けた。それから隣のシャットちゃんに視線を向けて余裕そうに首を傾けた。
「シャット、この子が新人の研修生さん?」
「その通りにゃ! すっごく筋がええんよ! 剣も弓も、魔法も一定水準以上!」
「……ほんとに? それはすごいな」
こちらに目線を向けて褒めちぎるシャットちゃんと、それに驚いたように目を見開いてまじまじと観察してくるアレク? さん。
そんなに褒められると恥ずかしいんだけど……それにそんなに言われるほどのじゃないし……。
顔に熱が溜まっていくのがわかる。首から頬が熱い……!
「ふふ、照れとる照れとる~! 見た目だけじゃのうて、ほんに中身まで可愛いにゃぁ~!」
「あ、あんまり言わないでよ。うぅ……」
しゃがんでうりうりと頭を撫でられる。
その姿をじっと見つめてる彼とふと目が合って、余計に恥ずかしくなって「もういいでしょ」とシャットちゃんを自分の体からやんわりと剥がした。
「……それでシャット、彼女が凄いのは分かったけれど、早いところ振り分けをしてしまいたいから具体的なのを教えてくれると助かるんだけど」
シャットちゃんを離して少ししてからアレクさんは口を開いた。
私たちが落ち着くまで待っててくれたのかな……?
「あっ、手元にあるんはメモ書き程度なんやけど……」
「構わないよ。頂戴」
「了解したにゃ」
シャットちゃんは軽い足取りで彼の傍まで行き、ひらりと一枚の紙を手渡す。それを受け取って「ふむ……」と小さく唸って彼は目線だけで素早く読んだ。
「……疑ってたわけじゃないんだけど、なるほど、君がそこまで褒めるのも誇張ではないらしいね。ただ支援系魔法と治癒魔法の欄が空いてるのは相手がいなかったから、って解釈でいいの?」
つらつらと硬い表情でシャットちゃんを問い詰めるアレクさん。その雰囲気に少しだけ「怖い」なんて思ってしまう。
しかし彼女は臆することなく「その通りにゃ」とあっけらかんと答える。表情は真面目なものだけど。
「了解。じゃあ今から僕が相手をしよう」
「えッ!?」
「は……」
何を言ってるのこの人。
思わず口から呆然とした声が漏れる。
大きな声を出してビョンと飛び跳ねたシャットちゃんに、アレクさんはなんてことないと言ったように、最初に見せた表情で笑った。
「僕が相手をして、君が記録を取る。ね! いい分担でしょ?」
にこやかにそう言ってのけた彼は幼い笑みを私にも向けて「きみもそれでいいよね」と拒否することは許されない雰囲気と口調で聞く。いや、問いかけてる感じだけど、これ絶対語尾に疑問符ついてないじゃん……。
可愛らしい顔と明るい発声、そのどちらにも不釣り合いの雰囲気をまとった彼を果たして私はどう形容すればいいのかわからない。どう対峙していいかも。
ただ一言、
「は、はい」
そう答えるしかなかった。
「さて、じゃあ始めようか」
「ちょ、勝手に進めんといて! 準備が……」
「手伝うから早く終わらせよう。あまりここに時間を割きたくない」
慌てて制止するシャットちゃんに頑として譲らないアレクさんのやり取りは軽くて、「ああ、仲がいいんだな」っていうのを空気が読むのが苦手な私でも感じ取れた。
もしかして付き合ってるのかな……?
なんて、探りを入れるのは無粋、かな。
前もそんな風にして怒られたことがある気がする。あれは結構応えたから……もちろん、自分が悪いんだけど。
ぼんやりと考え込んでいるうちに準備は二人の手によってできてしまったらしく、中庭にある小さなフィールド──まるでサッカーの試合でもできそうな形の、しかしその大きさは到底本物には及ばない──にアレクさんが立って私に呼びかけた。
「準備できたよ! さあ、始めよう!」
フィールドの中間あたり、でも少し離れたところからシャットちゃんも「はよおいで!」と手招きする。
「あっ、ごめん、今行きます!」
慌てて立ち上がって、アレクさんと対面するようにフィールドに入った。
「そうだ、自己紹介がまだだったね」
ポム、と茶色いレザー手袋に手を打って彼が言う。
そう言われてみればそうだ。改めて目の前にいる人を観察しようと凝視する。
赤いベストに白いシャツ。透き通るような雪のような白い肌と、ネコ目の琥珀のような宝石のついたループタイは、どこか彼が「いいとこ」の出であることを感じさせる。臙脂色の隊服は膝下まであり、時折風になびいて裏地の深い緑が顔をのぞかせた。
長い前髪がさらりと風に掬われて、一瞬だけ片方の目が見えた。
……綺麗な、緑色……。
「僕はアレクサンダー……アレクって呼んで。所属は第四番・攻撃部隊。君はディアさんだよね。……あれ、おーい、聞こえてる?」
「……! すみません! えっと、アレクさん?」
困ったように笑う彼に名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
私が名前を呼ぶと、アレクさんはその八の字にした眉を上げて、花の様に笑いなおした。
「うん。じゃあ始めようか。好きな武器を持って、いつでも使えるようにね。支援から行こうか、シャット」
「はぁい」
アレクさんがシャットちゃんに呼びかけながらこちらに向かって歩いてくる。
え、な、何……?
思わず身を引くと、困ったような表情を彼は作った。それでいても口元はずっと笑っている。
「そんなに怖がられるとちょっと傷つくかな……」
「えっ!? す、すみません! そんなつもりじゃ!」
「アレク! なにディアちゃんのこと怖がらせとると~!?」
「ちが……! すみませんアレクさん!」
シャットちゃんがアレクさんに飛ばす声を聞いて、そんなつもりじゃない! と大慌てで否定する。そのまま勢いよく頭を下げるとアレクさんは声に出して笑う。
「気にしないで。まぁ、いきなり知らない男に近づかれたらそうもなるし。むしろ『いいこと』だよ、危機管理能力が高い。大事なことだよ」
めちゃめちゃ褒めてくれる……! 頭を上げて彼を見る。本当に意にも介してなさそうな顔。
「ん? どうしたの?」
「い、いえ! ありがとうございます……!」
「え、お礼言われるようなことした記憶ないんだけどな……まあ受け取っておくよ」
ふふ、と口元に手を当てて柔らかく笑う彼にふと心臓が大きく音を立てた。かわいい……! 男の人に言うことじゃないかもしれないけど……。
「準備できたみたいだ。じゃあ適正テスト2を始めようか」
「はい……!」
不意に頭の上から柔らかい、優しげな声が降ってきた。
「アレク!」
すっくと立ち上がってシャットちゃんはその声の主に向かって声をかけた。
アレク……?
顔を上げるとすぐ目の前に、茶髪で左目を隠した童顔の男の子が立っていた。晒された赤い目の瞳孔はシャットちゃんのような猫目。大きな剣を背負ってる……。
彼はふわりと優し気な笑顔をこちらに向けた。それから隣のシャットちゃんに視線を向けて余裕そうに首を傾けた。
「シャット、この子が新人の研修生さん?」
「その通りにゃ! すっごく筋がええんよ! 剣も弓も、魔法も一定水準以上!」
「……ほんとに? それはすごいな」
こちらに目線を向けて褒めちぎるシャットちゃんと、それに驚いたように目を見開いてまじまじと観察してくるアレク? さん。
そんなに褒められると恥ずかしいんだけど……それにそんなに言われるほどのじゃないし……。
顔に熱が溜まっていくのがわかる。首から頬が熱い……!
「ふふ、照れとる照れとる~! 見た目だけじゃのうて、ほんに中身まで可愛いにゃぁ~!」
「あ、あんまり言わないでよ。うぅ……」
しゃがんでうりうりと頭を撫でられる。
その姿をじっと見つめてる彼とふと目が合って、余計に恥ずかしくなって「もういいでしょ」とシャットちゃんを自分の体からやんわりと剥がした。
「……それでシャット、彼女が凄いのは分かったけれど、早いところ振り分けをしてしまいたいから具体的なのを教えてくれると助かるんだけど」
シャットちゃんを離して少ししてからアレクさんは口を開いた。
私たちが落ち着くまで待っててくれたのかな……?
「あっ、手元にあるんはメモ書き程度なんやけど……」
「構わないよ。頂戴」
「了解したにゃ」
シャットちゃんは軽い足取りで彼の傍まで行き、ひらりと一枚の紙を手渡す。それを受け取って「ふむ……」と小さく唸って彼は目線だけで素早く読んだ。
「……疑ってたわけじゃないんだけど、なるほど、君がそこまで褒めるのも誇張ではないらしいね。ただ支援系魔法と治癒魔法の欄が空いてるのは相手がいなかったから、って解釈でいいの?」
つらつらと硬い表情でシャットちゃんを問い詰めるアレクさん。その雰囲気に少しだけ「怖い」なんて思ってしまう。
しかし彼女は臆することなく「その通りにゃ」とあっけらかんと答える。表情は真面目なものだけど。
「了解。じゃあ今から僕が相手をしよう」
「えッ!?」
「は……」
何を言ってるのこの人。
思わず口から呆然とした声が漏れる。
大きな声を出してビョンと飛び跳ねたシャットちゃんに、アレクさんはなんてことないと言ったように、最初に見せた表情で笑った。
「僕が相手をして、君が記録を取る。ね! いい分担でしょ?」
にこやかにそう言ってのけた彼は幼い笑みを私にも向けて「きみもそれでいいよね」と拒否することは許されない雰囲気と口調で聞く。いや、問いかけてる感じだけど、これ絶対語尾に疑問符ついてないじゃん……。
可愛らしい顔と明るい発声、そのどちらにも不釣り合いの雰囲気をまとった彼を果たして私はどう形容すればいいのかわからない。どう対峙していいかも。
ただ一言、
「は、はい」
そう答えるしかなかった。
「さて、じゃあ始めようか」
「ちょ、勝手に進めんといて! 準備が……」
「手伝うから早く終わらせよう。あまりここに時間を割きたくない」
慌てて制止するシャットちゃんに頑として譲らないアレクさんのやり取りは軽くて、「ああ、仲がいいんだな」っていうのを空気が読むのが苦手な私でも感じ取れた。
もしかして付き合ってるのかな……?
なんて、探りを入れるのは無粋、かな。
前もそんな風にして怒られたことがある気がする。あれは結構応えたから……もちろん、自分が悪いんだけど。
ぼんやりと考え込んでいるうちに準備は二人の手によってできてしまったらしく、中庭にある小さなフィールド──まるでサッカーの試合でもできそうな形の、しかしその大きさは到底本物には及ばない──にアレクさんが立って私に呼びかけた。
「準備できたよ! さあ、始めよう!」
フィールドの中間あたり、でも少し離れたところからシャットちゃんも「はよおいで!」と手招きする。
「あっ、ごめん、今行きます!」
慌てて立ち上がって、アレクさんと対面するようにフィールドに入った。
「そうだ、自己紹介がまだだったね」
ポム、と茶色いレザー手袋に手を打って彼が言う。
そう言われてみればそうだ。改めて目の前にいる人を観察しようと凝視する。
赤いベストに白いシャツ。透き通るような雪のような白い肌と、ネコ目の琥珀のような宝石のついたループタイは、どこか彼が「いいとこ」の出であることを感じさせる。臙脂色の隊服は膝下まであり、時折風になびいて裏地の深い緑が顔をのぞかせた。
長い前髪がさらりと風に掬われて、一瞬だけ片方の目が見えた。
……綺麗な、緑色……。
「僕はアレクサンダー……アレクって呼んで。所属は第四番・攻撃部隊。君はディアさんだよね。……あれ、おーい、聞こえてる?」
「……! すみません! えっと、アレクさん?」
困ったように笑う彼に名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
私が名前を呼ぶと、アレクさんはその八の字にした眉を上げて、花の様に笑いなおした。
「うん。じゃあ始めようか。好きな武器を持って、いつでも使えるようにね。支援から行こうか、シャット」
「はぁい」
アレクさんがシャットちゃんに呼びかけながらこちらに向かって歩いてくる。
え、な、何……?
思わず身を引くと、困ったような表情を彼は作った。それでいても口元はずっと笑っている。
「そんなに怖がられるとちょっと傷つくかな……」
「えっ!? す、すみません! そんなつもりじゃ!」
「アレク! なにディアちゃんのこと怖がらせとると~!?」
「ちが……! すみませんアレクさん!」
シャットちゃんがアレクさんに飛ばす声を聞いて、そんなつもりじゃない! と大慌てで否定する。そのまま勢いよく頭を下げるとアレクさんは声に出して笑う。
「気にしないで。まぁ、いきなり知らない男に近づかれたらそうもなるし。むしろ『いいこと』だよ、危機管理能力が高い。大事なことだよ」
めちゃめちゃ褒めてくれる……! 頭を上げて彼を見る。本当に意にも介してなさそうな顔。
「ん? どうしたの?」
「い、いえ! ありがとうございます……!」
「え、お礼言われるようなことした記憶ないんだけどな……まあ受け取っておくよ」
ふふ、と口元に手を当てて柔らかく笑う彼にふと心臓が大きく音を立てた。かわいい……! 男の人に言うことじゃないかもしれないけど……。
「準備できたみたいだ。じゃあ適正テスト2を始めようか」
「はい……!」