1章「種」
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「あの、シャットさん」
「シャットでよかよぉ。敬語もいらんったい」
「……じゃあシャットちゃんで。適性検査って言ってたけど、どこで何を?」
筆記テストならGuardianの面接と一緒にやったはず。あと他にやるとしたら実技?
そういえば試験用の場所がないとか何とかで実技はやってなかったっけ……。故郷支部のGuardianがとんでもなくちんまりとしてたから。
あそこで戦闘訓練とかを本気でやると、下手をすれば民間に被害が出ると言ってできなかった。
「ここの中庭とか、あとはちょっと離れた森のほうに訓練場があるったい。今回の適性検査は中庭でやろうと思うにゃ」
「ちょっと歩くにゃ」と言われながら赤い絨毯の上を歩く。
後ろの方で先程通った玄関ホールにある大きな柱時計がボーンとなった。ということは、今は元々の集合予定時刻だった9時だろう。
「中庭ってそんなに広いの? 検査に使うんならそれなりな大きさ必要だと思うんだけど……」
「心配はせんでよかよ。ここん中庭は結構な大きさがあるにゃ。それに日当たりもいいし、花壇とか緑もいっぱいあるけん。ディアちゃんもきっと気に入るにゃ!」
くるくるとこちらを振り返ったり、かと思ったら前を向いたりと軽い足取りで彼女は上機嫌に笑っている。
彼女がGuardianについて簡単に話す声を聞いていたらいつの間にか私たちは中庭に到着していた。
「ここにゃ! 誰もおらんよな……?」
キョロキョロと誰もいないだだっ広い庭をシャットちゃんは見渡す。それからぴょいと中に入って「ディアちゃんもはよ入っといで〜」と手招きをした。
「さて、じゃあ検査を始めるにゃ!」
「よ、よろしくお願いします」
「あんまり硬くならんで、気楽にいくにゃ」
けらけらと笑いながらシャットちゃんは剣や弓、的などを手際よく準備していく。
「準備運動はちゃんとしとってもろてええ? もうちょっと準備時間かかるけん」
「わかった」
ぐいぐいと腕や足を延ばす。アキレス腱や指の先までじっくりと。とんとんとジャンプをしてると、準備が終わったらしく、シャットちゃんが「体操終わった? 始めてもよか?」ときょとんとした瞳で見つめてきた。
「うん、大丈夫」
「おっけー! じゃあ今から一つずつ武器をどんどん渡していくけん、あの的やかかしを壊してほしか」
はい、とまずは片手剣を手渡される。藁でできた人形が目の前に出されて、アレ壊しちゃうけど大丈夫なのかな、と少し不安になる。
それを見透かしたようにシャットちゃんが声を張り上げた。
「代わりはいくらでもあるから、どんどん壊して大丈夫にゃ!」
「う、うん!」
こうして片手剣に始まり、両手剣、片手半剣、ムチ、素手、ナイフ、重火器、弓矢……と武器種を問わずに使いまくった。その後にどれだけ魔法を使えるかまで見られて、もうへとへとだ。体中の血という血をすべて持ってかれた感じ……。
「つ、つかれたぁ……もう無理、歩けない……」
「長時間お疲れ様ぁ! お水とタオルにゃ、ちゃんと汗拭いて水分補給するんやよ」
木陰にへたり込んで貰った水を飲む。冷たくておいしい……。
「にしてもディアちゃんはすごいにゃ。体力も魔力も相当量あるし……大体どこにでも行けるにゃ。もしかして宝石も大きか?」
「そんな……褒めてもらって光栄だけど……。宝石、はどうだろうね、わかんないや。これまで比べたこととかなかったから」
ポケットからネックレスとブローチに加工されたアメシストを取り出す。紫色の宝石が木漏れ日に反射してキラリと光った。
「ふたっつあるん?」
「えっと、まあ」
この世界では自分の命がこの宝石に握られている。第二の心臓がこのアクセサリーたち。加工は今やると命を落とす可能性が高いけど、これは昔小さいころに作ったものらしい。記憶がないときのだけど。
「ふーん、綺麗やねぇ……これ、えっとアメシストやよね?」
「うん」
「ええね、ディアちゃんによう似合っとるにゃ」
きっと本心から彼女は言っているんだろう。屈託のない笑顔がそれを物語っている。
でも私のこの石は似合わない。アメシストは……『調和と調整』の石。『真実の愛を守り抜く』石。
私に愛は無いから、もうわかんなくなっちゃったから、似合わない。
もうただのコンプレックスになっちゃった。
……なんて絶対口が裂けても言えないんだけどね。