まほやく


私は頭が真っ白になる。
いや、まてまて、もう少しちゃんと考よう。
んーっと、これは?

「んーっと、これは?」

「ばぁか、心の声そのまんま出てるぞ」
「はっ!?」
まるで漫才のような流れに晶はやっと我に返ることができた。
「す、すみません。えっと、その、どうして私は連行されているんですか?」
至極真っ当な質問を投げかけることに成功するも、答えは返ってこない。
魔法舎の階段を一段ずつ登っていくブラッドリーにもう一度私は声を掛けた。

「あ、あの!どうして私は担がれているんでしょうか!?」

彼のジャケットを簀巻きのように身体に巻かれ身動きが取れないまま、肩に担がれている奇妙な光景。
遠くの方からミチルとリケが慌てて跡を追ってくるのが見える。
あ、あ、助けて。ふたりとも!!この人まるで話を聞いてくれない!!
私の懇願も虚しく、ブラッドリーの部屋の前に到着すると、足蹴りで扉を開ける荒々しさに思わず身を縮めた。

「わ゛っ!?⋯⋯え?」

ソファーに向かって勢いよく投げられるかと思いきや、存外丁寧に身体を降ろされる。
驚いて彼の顔をまじまじ見つめてしまうと、目が合ってしまった。

(あ、れ?何か、機嫌⋯⋯悪そう?)

「なんだよ」
「え、あ、いえ⋯⋯って、そっちこそいきなり何なんですか!?」
「何って、あのな。⋯⋯賢者、お前こそ何してんだ?」
「え?私はただ雪あそ、びを⋯⋯」

私は鼻をすすりながら訴える。
そうだ、私は先程まで魔法舎の庭に降り積もった雪でミチルとリケと一緒に遊んでいた。
雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり、我ながら童心に返って雪と戯れたひと時は良い気分転換になっていた。
最後にかまくらを作ろうと雪山を作っている最中でブラッドリーが中庭にやってきたのだ。
彼は驚いた声を上げ、一直線に私のところまで向かってきた。
そうして放った第一声はこれだった。

「ガキか」

私は抵抗する間も無く、ブラッドリーのジャケットを頭から被らされるとあっという間に担がれ、拉致されたのである。
え⋯⋯、まって。今、考えてみてもブラッドリーはどうして怒っているのだろう。
私、何かしたかな。
あ!もしかしてみんなを模して作った雪だるまが気にくわなかった?
もっとボスのこと格好良く作っておけば良かった⋯⋯。

「おい」
「うぇ゛!?」

驚いて変な声を出してしまった。
あ、ヤバイ。ブラッドリーの眉根が先程よりも少し上がった気がする。
地雷を踏まないようにそーっと彼の方を伺うと、こちらにマグカップを差し出していた。
「え、くれるんですか?」
「早く受け取れよ」
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
大きいマグカップを両手でしっかり受け取ると、甘い香りが湯気と一緒に顔を包んだ。

(あったかい)

そう言えば、雪遊びに夢中ですっかり身体が冷えている。
降り積もった雪なんて日本に住んでたころは体験しなかったからな⋯⋯、思いの外テンションが上がって防寒もそこそこに雪へ飛びついてしまった。
かじかんだ指先にじんわりとマグカップの熱が伝わってくる。
そのまま、ゆっくり丁寧に口を付けた。

「おいしい⋯⋯」

ぽつりと呟いたそれに、ブラッドリーはとても満足そうな顔をこちらに向けていた。
私はなんだかムズムズして、またそれに口を付ける。

「気に入ったか?それ」

先ほどとはまるで違う声色の彼の機嫌はいつの間に直ったのだろうか。
「えっと、これはホットミルクですよね?」
「そこにブランデーと蜂蜜を入れてある」
「わ、お酒入ってるんだ、これ」
「で、身体。どうだ?」
「え?⋯⋯からだ?」
ひと呼吸置いて彼と見つめ合うと、「ん?」と首を傾げた。

「温まったか?」
「え?あ、はい!ぽかぽかです!」
「⋯⋯それは良かった」

呟くように言った言葉を私は上手く聞き取れない。聞き返す間もなく無造作に頭を撫でられ髪がぐしゃぐしゃにされる。それから彼の顔が急に目の前にやってくると、目を逸らすことができなくなってしまった。

「風邪引いてんだから、雪遊びは我慢しろ」

捉えられた瞳からは僅かな心配と呆れが滲んでいる。
そして扉の向こうからはミチルとリケ、それからネロの声が響いている。
私は身動きが出来ないまま、ただ彼を見つめ続ける。

どうして私が風邪気味なのを知っているのだろう。

ホットミルクの熱とは異なる熱が確かに身体に帯びれば、ブラッドリーは喉を鳴らして私の頬に指を滑らせるのであった。

(終)
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