Library War
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*Liqueur*
「失礼しまーす、手塚ぁ、柴崎見てない?」
「え、見てませんが」
「あれ?おっかしいなぁ」
閉館後、急に訪ねてきた高崎。
そう首をひねりつつ、まあいっか。と、いつものように奥のデスクに向かった。
「あ、高崎教官」
「郁ちゃん今朝ぶり。コイツに苛められたりしてない?」
笑顔で指差す先には仏頂面の男が。
「人を指差すな、指で」
「ぁ、いえ、まだ大丈夫です!」
「お前もまだとはなんだ!」
すかさず噛みつく堂上を全く意に介さず、それはよかった。と座っている郁の頭を撫でた。
嬉しそうに笑う郁の後ろに犬の尻尾が見えたとか見えなかったとか。
「あ、堂上ー、今夜空けといてよね、小牧もねー」
「あー、ごめん。今日は無理」
そう苦笑する小牧に、高崎は一気に不満げな表情になった。
「何よ、来れないの?……あ、はいはいはいはい。そーよねー、誘っちゃってごめんねー」
お姫様から取る気にはなんないわー、と一転して何やら心得顔で小牧を小突いた高崎。
それに小牧は笑って片手を上げた。
「悪い」
「ぜーんぜん!むしろ報告希望」
と小牧相手にニヤニヤと緩む頬を隠しもしない高崎に、堂上は苦笑を通り過ぎて顔を引き攣らせた。
「お前、……」
零れた呟きは、それにしても今までよく我慢したわよね、とあっけらかんと言い放った高崎にかき消された。
堂上の近くにいて明らかに聞こえただろうに、高崎にまあね、と軽く返すだけだった小牧も小牧だが。
* * *
数時間後、堂上は何時もの席で飲んでいた。
隣にはぐびぐびと聞こえてきそうな程豪快にビールを煽る高崎。
ジョッキをテーブルにドンと下ろしてぷはっと言う姿は何処ぞのオヤジにしか見えない。
「あーん、彼氏ほしぃー」
あ"ぁぁぁと色気もクソもない声を出しながらつっ伏した。
だが彼氏がほしいという割に、呼び出されても断ってばかりなこの同期に、少しは期待してもいいのだろうか。
「堂上ー、もし38まで結婚出来なかったら貰ってねー」
「またそれか」
「堂上が38まで結婚出来なかったら貰ってあげるー」
「お前、地味にリアルな数字出すな!」
「お前ら五月蝿いから」
「お前は喋りながらツボるなッ!」
大学の頃はそんなのまだまだずっと先だと思っていた。
だが気づけばその年齢まであと数えるほどだ。
「あぁ、でも堂上は郁ちゃんの王子様だから無理か」
その言葉に視線を戻すと、高崎はいつの間にか首を回してこちらを見ていた。
自然と上目遣いになった目は酒のせいか潤んでいる。
「……酔ってるのか?」
「うるさい」
ばっさり切り捨て目を閉じた高崎に、堂上は苦笑した。
俺は何のために今日呼ばれ(連行され)たのだろう。
相変わらずだなと見下ろしながら酒を飲んだ。
テーブルに投げ出された腕、袖からのぞく細い手首、髪が流れる白い項、影を落とす長い睫毛、不機嫌そうに尖らせた薄めの赤く無防備な唇……。
酒を静かに置くと、堂上は少しかがみ、目を閉じたままの高崎の唇に自分のそれを重ねた。
触れるだけですぐ離れた堂上は、ジョッキを傾ける振りをしてほくそ笑んだ。
「ちょっ」
「ん?」
「何、今の」
「何ってキスだろ」
「いや、それはわかってるけど」
「何だよ」
「堂上、酔ってんの?」
「うるさい」
さっきと立場が逆になった事にも、珍しく動揺する高崎の姿にも、堂上は満足そうに笑った。
「堂上」
「ん?」
呼ぶだけ呼んで黙っている高崎。
何だ?と思いつつジョッキを傾ける。
「─────?」
耳元で囁かれ、可愛らしいリップ音が残されたことに、うっかり噴きそうになったのを堪えた自分を褒めてほしい。
バッと耳を押さえ振り返ると、高崎がニヤリと口元を歪めていた。
「んなッ!」
「へっへーんだ」
私がやられっぱなしな訳ないでしょー、と笑う顔はケケケと効果音が付きそうな、まさに悪魔だった。
この上なく極悪そうでいて、
───この上なく妖艶な───
真っ赤になった堂上に満足したのか、高崎は上機嫌にビールの追加を頼んだ。
「いや、今のコイツの注文なしで」
「はぁ!?」
ちょっと、と批難するような目を睨み返し、
「最初に誘ったのはお前だろ、」
穂美。
そう久しぶりに名前を口にして振り返れば、高崎は頭にはてなマークを浮かべたような顔をしていた。
この酔っ払いがやっと理解したのは、堂上がさっさと会計をし、手を引き出口に向かい始めた時だった。
「☆¥◇▲※@■♪$○#!?」
必死に手を離そうとするが、びくともしない。当たり前だ、離す気はないからな。
「俺がやられっぱなしの訳がないだろう、なあ?」
結局、この後どうなったかは2人(+愚痴られた小牧)だけの秘密……。
「ちょっ、ムリムリムリ!助けて小牧ぃいぃぃい!!」
「お前ちょっとはムードだせ馬鹿ッ!」
【End】