Library War
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*the Call*
夜のコンビニに行った帰り、いつものように小さな公園に足を踏み入れる。
子供の頃よく2人で来ていた、ブランコと鉄棒くらいしかない、小さな公園。
あの頃は部活帰りの夕方で、まだ空にオレンジ色が残っていたのに、
今は温度を感じない白い光に、影が寂しげに揺れるだけ。
細く白い息が漏れた。
お気に入りのベンチに腰掛け、ポケットから手を出した。
電話帳なんて開かない。悴んだ指でさえ間違えずに押せる番号。
──pururururu、pururururu──
無意識に呼び出し音を数える。
だって君のケータイは、7回目で留守電に切り替わってしまうから。
──只今、電話に出ることができません。合図の音が──
ほらね、君は何時も出ないんだ。もう寝ちゃったのかな。
……だといいな、君は頑張りすぎるから。
でも君のことだから「睡眠不足は美容の大敵」とか言ってそう。
──pi-──
「もしもし?俺、成海。──」
……え?どうして幼馴染みなのに苗字かって?
実はコレ、あだ名なんだよね、実はって言うほどでもないけどさ。
ほら、"成海"って女の子の名前であるじゃん?
それに俺もガキの頃から女々しかったから、ちょうどいいって友達につけられた。
あ、いじめってわけじゃないよ。案外気に入ってるしね。
……あれ、誰に弁解してるんだろ。
「・・・じゃあ、おやすみ」
そして何でもないメッセージを残し、通話ボタンを切る。
君は、明日の朝これを聞くのかな?
それならおやすみじゃなかったな。と嗤う。
また君に笑われるんだろうな…。
君はメールでいいって言うけれど、俺は電話したいんだ。
ただ、君の声が聞きたいんだよ。
そして俺は、今日も電話をかける。
でも今日はちゃんとした作戦があるんだ。
こっそり予定を聞き出して、週末に内緒で君に会いに行くんだ!
だから 勘づかれないように、さりげない会話で僅かな糸口を掴んで
うまくやるんだ!
ふふふ、すっごいワクワクしてきた。
俺が急に現れたら君はどんなカオするかな?
──pururururu、pururururu、pururururu、──
──pururururu、pururururu、pururururu、pururururu──
――只今電話に出ることは……――
…いやわかってたさ。でも、
あの頃は隣で聞いてたちょっと不機嫌そうな声も、いたずらっぽく笑う声も、
今はこのちっぽけなケータイの中なんだ。
電話に出ない君を少し憎たらしく思って見上げた月が滲んだ。
はは、……やっぱり俺、女々しいな。
……なんで俺ばっかりこんな寂しがってんだろ。普通逆なんじゃねえの?
心臓を握り潰されてるみたいに苦しくて、情けなくて。
何でもないメッセージを残し、通話ボタンを切りかけた時、留守電が急に切り替わった。
「"もしもし?どうかしたの?"」
「え!?あっ、えっと、明日の予定はどーナってるの?」
公園にしんと静まりかえる。携帯の向こうからもなんの音もしない。
…うわ、まじか。
慌てすぎて声が裏返った。しかも、口から出たのはあからさまな問い。俺は頭を抱えた。
次の瞬間、耳元で盛大に吹き出す音がして、俺よりずっと高い笑い声が続いた。
終わった…。
これで作戦は丸つぶれ。絶対バレた。
うわ、まじ死ね数秒前の俺……!!
「はぁ、……」
思わず漏れた溜め息も、君の笑いの元になるだけで。
大事なとこで結局失敗して、しかもそれを笑われて悔しいのに、耳に響く君の声が妙に懐かしくて。
また視界が滲んで、自分で小さく笑った。
「"……え、ちょっと何、あんた泣いてんの?"」
「え?いや、ううん、何かやっぱうまくいかないなあって」
そう言うとケータイの向こうは黙り込んだ。俺はそれに乾いた笑いを漏らした。
「ほんとは明日びっくりさせようと思ってたのにバレるし。久しぶりなのにカッコ悪いとこ見せちゃったし」
声聞いたら普通に泣きそうになっちゃったし。
ははっ、俺ってだめだなぁなんておどけて笑うが、明日、という君の声に遮られた。
「明日はシフト午前中だけよ」
……え、
その言葉に、一気に自分の気分が上昇するのがわかった。だって、それってつまり、……
嬉しくて言葉を出せないでいると、耳元でちょっと、と不機嫌な声。
「で?明日来るのね」
もはや問いになっていない問いに、いつもなら乾いた笑いが出るが、今は嬉しさのせいで全く気にならない。
「ああ!…実はもう切符も買ってるんだ」
「それじゃあ、私に聞く意味なかったじゃない」
それに君が小さく溜め息をついたのがわかった。
呆れた風の君に笑みがこぼれる。この空気が懐かしくてとても心地いい。
やっぱり君の声を聞くと、落ち着くんだ。
「それじゃあ明日、始発で行くよ」
「ええ、わかったわ」
噂の"堂上教官"さんに会うならかっこよくしなきゃいけないかな?と呟くと鼻で笑われた。
「"カッコ悪いのなんて元々なんだから期待なんてしてないってのよ"」
普通でいい、普通で。そのあっけらかんとした言い方に思わず声を上げて笑った。君らしいよ、ほんと。
でもそんな君だから好きなんだ。
冷たいようで優しくて、人に対しては臆病で、それでもしゃんと背筋を伸ばして自分の力で立ち向かう。
その姿は素直に尊敬できるし、男の俺から見ていてもカッコイイ。
でもさ、時々心配になるんだよ?君は女の子なんだから。
近くにいてあげられるわけでもないし、俺じゃ頼りないかもしれないけど。
君は、君が自分で思ってるほど強くないんだから。
……そりゃあ俺よりは強いかもしれないけどさ。
どうか無理をしないで。自分のため以外に傷つかないで。
そんなこと言っても君は聞き入れてくれるはずないって分かっているから。
だから、せめて俺はずっとお気楽野郎でいるよ。
疲れたときに、君をバカみたいに明るく包み込めるように。
バカみたいだと、思いっきり罵れるように。
そして悩んでる事とか辛い事を少しでも軽くしてあげられるように。
少しでも頼れる男に近づけるように頑張るよ。
それこそ君に釣り合うくらいに。
だから待っててよ。
ね、麻子?
《END》
【あとがき】
拍手短編第1号でございます!わぁー!
なんだか凄く書いてて楽しかったです。私もしかして短編向き……?(笑)
初の男主です。相変わらず拙いです。
読んでいただいた方の中で「あれ?」と思われた方もいらっしゃったかと思いますが、実はそうなんです!(何が)
コブクロさんの曲をたまたま聴いて、「あれ、この歌詞の男性は実はかなり可愛らしいのでは?」と思い、そしてみるみる妄想が広がり……(笑)
でも本当は毬江ちゃんお相手にしようかなと思って準備した初男主(とある大切な読者様とのお約束もあったので……)なのですが、このネタが電話!こりゃまずい!となりまして、急遽柴崎に来て頂いた次第です。思いがけずツンデレ要素が……?
でも今回は"男主練習作品"ということで勘弁して頂ければなと、思います。
長々と失礼しました。拍手ありがとうございました!
参考楽曲:コイン(コブクロ)