Nevertheless番外編
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───…ミーン、ミンミンミンミーン…───
じんわりとかいた汗がツーっと米神を伝う。
木陰を選んで立っているが、その影も少し短くなってしまっている。
左手首に目を落とし、また元に戻した。
流れる人波をぼーっと眺め、何度目か知れないため息をつく堂上の背後に、猛スピードで近づく影が一つ。
「…わっ!」
「っ!?」
ドンッと体当たりされたかのような衝撃に驚き振り返ると、そこには軽く両手を挙げたまま自分を見上げる待ち人がいた。
「えへへ、待った?」
そう笑う可南にむっとしたが、上下する肩と風で髪の上がったおでこに光る汗を見、眉間にシワを寄せるだけに留めた。
「待ったに決まってるだろ1時間も待たせやがって」
今度は体ごと振り返り、可南の少し汗ばんだ頬をむにっと抓った。
「はははっ、でもギリギリ1時間前だし」
相変わらずヘラヘラして反省の色が見えない可南に、堂上は黙って指をひねった。
「ちょっ痛ひっ、ギブ!ほっへねじれへるっ!」
途端に慌てる可南に堂上は顎をツンと上げた。
「何か俺に言うことは?」
「っ遅れへごめんなはいッ!あふいのに待っへへくれへありがとうッ!!」
そこで堂上はやっと手を離してやった。痛かった!とばかりにわざとらしく頬をさする妹に、堂上はため息をついた。
「遅れるなら連絡しろよ」
「ごめん、携帯忘れてきちゃって」
「やっぱ阿呆だろ」
「返す言葉もございません」
ペコリと頭を下げる可南の上に、堂上はさっと手を出した。
次の瞬間、体を起こそうとした可南の頭が堂上の手にぶつかり、自らチョップを受けたような形になる。
「いっ!?」
可南は後頭部をおさえ、しゃがみ込んだ。
ちょっと、可愛い妹に何してくれてるのよ!?
涙目で堂上を睨みつけるが、堂上は気にした様子もなく、ふふんと見下ろしてくる。
それにカチーンときた可南。
この前郁に教えてもらった足技でもかけてやろうか!?と右足を踏み込んだその時、
「あれ、堂上?」
突然の声に2人同時に振り向いたが、何となく見覚えのある顔に、可南はあれ?と立ち上がった。
「やっぱり堂上じゃん!俺だよ、俺!小山田!憶えてない?」
「え!?うそ!ほんとに!?」
「嘘ついてどーすんだよ!」
久しぶり!やら、元気だった?と盛り上がる2人に、堂上は青年の方を半目で睨んだ。
すると、それに気づいたらしい青年が一瞬固まる。
「ぁ、えっと、堂上?」
急に大人しくなった元同級生に、可南もきょとんとして黙る。
「どうしたの?」
「えっと、…彼氏さん?」
そう指さされた先には、一緒にいたもう1人の堂上が。
彼のとんだ勘違いに気づいた瞬間、可南は思わず吹き出した。
「ぶはっ!違うよ、お兄ちゃんだよ!」
それを聞いた青年は、じゃあなぜ自分が睨まれたのだろうかと戸惑った表情を浮かべたが、彼氏だってーと心底可笑しそうに笑う可南は気づかない。
相変わらず恐い顔で自分を睨みつける堂上に、青年は一層当惑した。
「そ、そうなのか?…じゃ、じゃあ俺はもう行くな!会えてよかったよ!」
「うん!また皆で会おうね!」
可南の言葉に青年は引き攣った笑みを浮かべ、じゃな!とそそくさと帰って行った。
可南はそんな彼に手を振りながら、やっぱり不思議そうに首をひねった。
「どうしたんだろ、急に……」
ね、と振り返り堂上を見上げると、堂上も何だったんだろうな、と小首を傾げて肩をすくめた。
***
「……ってことがあって、って柴崎さん何笑ってるんですか」
空調の効いた喫茶店の一角。
ガラス一枚の向こう側では相変わらず蝉の声が聞こえている。
「いや、……堂上教官も苦労してらっしゃるのねぇ、と思っただけよ」
この前の堂上と出かけた話をBGMに優雅にハーブティーを楽しんでいるのかと思えば、柴崎の口元はふるふると震えていて。
何か笑う要素なんてあったかな?と可南は怪訝に思ったが、柴崎は気にしないで、とはぐらかすばかりで益々首を傾げる。
するとずっと黙っていた郁は神妙な面持ちで一つ頷いた。
「確かに…。1時間も待たせるのはねえ、…って何突っ伏してんの柴崎」
「…っいやぁほんっと、堂上教官気の毒っ」
「「だから何がよ/ですか」」
不服そうにハモった郁と可南に柴崎はまたぶっと吹き出した。
何がそんなに面白いのよ!
そーですよ、1人ばっかりズルイですよ!
と全く分かってないお姫様2人をテキトーにあしらいながら、柴崎は王子様(とついでにもう一人の王子様)にエールを送るのだった。
(そういえば今日は何で遅れたんだ?)
(あー、……向かい風が強くて?)
(嘘つけッ!)
【END】
待ち合わせ+α可南ちゃんにつく虫を牽制するお兄ちゃんでした。
2人が勝手にじゃれてくれたせいで(カットしなきゃいけないくらい収拾がつかなくて)面白かったです(笑)
妹力(いつの間にか兄力?)全開できたでしょうかね…。うーん、狙って書こうとすると余計難しい。
というかこれは堂上教官夢でやればよかったかな?(笑)