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*anniversary*
ついてない。図書館を出ようとしたら雨が降ってた。…そう言えば、もう梅雨に入ったんだよね。こんな時季に傘も持たずに長居するとか、我ながらちょっとマヌケだ。
(どうしよう…)
午後六時。薄暗くなった外は梅雨らしい雨が静かにしとしと降ってて。駅までの道のりを傘もなく歩くのはさすがに躊躇われた。制服だし。
(ほんと、ついてない…)
今日は訓練日だったのかな。それとも哨戒? 書庫にこもってるってこともあるか。…何にしても、放課後ずっと粘ったけど小牧さんには会えなかった。こんなことなら、素直に来館のメールすればよかったかも………。
ちょっと、期待しちゃったんだよね。小牧さんなら、きっと覚えててくれるって。
今日が何の日か。
連絡しなくても、図書館に探しに来てくれると思ってたんだけどな。
(…甘かった……)
濡れそぼる舗道を見て溜め息がこぼれた。
「…帰ろ」
色々諦めて、鞄を胸に抱えて一歩風除室を出た時だ。
ぽん! と大きな傘が目の前で開いた。
「そのままじゃ濡れちゃうよ」
ちょっと息の弾んだ声を振り向けば、そこには小牧さんがいて。わたしの後ろから、長い腕で傘を差しかけてくれてた。
「焦ったよ。雨の中に出ようとするから」
今日は訓練日だったらしい。
「ずっと基地から出られなくて焦れてたんだ。そしたら降ってきたし」
折り畳みあるかなって思ったけど。傘持って来て正解だったねって。駅までの道を歩きながら笑う小牧さんは、空いた手で弛く拳を握ると軽くわたしの頭にコツリと当てた。
「困った時には連絡しなさい」
「…はぃ……」
微笑ったままの、柔らかな口調。でも大人スタンスの言葉遣いは小牧さんならではの強い「お願い」だ。
なかなか会えないけど。それが解るくらいには、一緒の時間を過ごしてきた---そういう一年。
人通りも増えて周りの街並みが賑やかになるにつれ、足取りが鈍くなるのが自分でも解った。もう駅は目の前で。だけど、相合い傘が名残惜しくて。
「はい」
と渡された折り畳み傘が、小牧さんの思いやりだと解ってるのに寂しい。ありがとって言いながら俯いたわたしはやっぱり子供だ。
「…なまえちゃん」
下を向いた視線を追うように傘が深く下がったのはその時だった。
ちゅ。
顔にかかった髪をくぐって、頬に触れたのは。
「ごめんね。たぶんこれ以上は犯罪だから」
続きは卒業してからねって。耳許の囁きに、顔中が熱くなる。
「来年も、その次も。俺が今日を忘れるだなんてあり得ないよ」
もう一度頬に触れた接吻けに、わたしはそっと寄り添った。
ささやかな、傘の中の秘め事。
今日はあなたと出会った日。
END