序章
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はじまりとは。
唐突に訪れるものである。
「ぴ!」
変な声が聞こえた。
その声の正体は、落第寸前のピスタチオ・メイプルウッド。
昨日ちょっと夜更かししちゃったから、寝てたのに。
ゼン部屋って、日当たり良くて穴場と評判のはずが台無しじゃないか。
今さら眠ることをできず、上半身だけ起こせば、ピスタチオがマジックドールと対峙していた。
「何やってんの?」
「トレーニングだっぴ!」
「え?この前落第しなかったっけ?」
「してないっぴ!!」
なんだ未遂か。
内心悪態をついてる少女はアリア。
今日も自慢の橙色の首飾りを身につけて、のんびり過ごしていた。
「カラマリィなんて爆破しちゃえよ」
「爆破っぴ!?」
「どうせストックあるだろうし」
「無理だっぴ!」
「頑張れ。死ぬ気で逝けば何でもやれる」
私は前にやったことあるし。
まぁ反省文は書かされたけどね。
「アリア!!ピスタチオ!!」
溌剌としたこの声が響く。
「なにやってんだ!?もうバスが来るぜ!!」
熱血少年のキルシュ・ピンテール。
その後ろには虫野郎……じゃなくて虫大好き少年セサミ・アッシュポッド。
「行きたくないねぇ」
「何言ってんだよ!!キャンプだぜ!」
「面倒くさいじゃん?」
例年の噂を聞いてる限り、集団行動と自給自足を何日間か強いられるやつ。
さざ波の音にセンチメンタル感じても、いずれは虚しくなるだけ。
あとはちょっと怪しい噂もあるし。
本当かどうか知らないけども、なんとなく。
なんとなく、嫌な感じがする。
そっと胸元にある橙色の首飾りに手を当てる。
「何やってるの?もうすぐ出発よ」
「ホントお前らグズだよなぁ。なんとかなんねぇのか?」
続けざまに聞き覚えのある声が聞こえる。
「ブルーベリーレモン」
「今繋げなかった?」
「いや?」
さすが賢い。いや鋭いのか。
問いただしたのは、ブルーベリー・レイクサイド。
代々王室付き名門レイクサイド家のお嬢様で、品があって美人さんだが、生まれつき体が弱いとのこと。
そして彼女の隣にいるのは、レモン・エアサプライ。
ニャムネルトの女の子で、可愛らしい見た目とは裏腹に格闘技が得意な男勝り。
口は悪いがクラスメートの中では年齢的にお姉さんだからか、意外としっかりしている。
「アリアったら、何だか眠そうね」
「夜更かしでもした?」
「まぁね。ついさっきまで寝てたんだ」
ピスタチオさえいなけりゃ、今頃は夢の中だったZE☆
いや、キルシュに起こされてたか?
「みんな、おはよ~!」
「キャンディ!あ……おはよう……」
なんだその情けない声はよキルシュちゃん。
そうなってしまった原因である甲高い声の主は、キャンディ・ミントブルー。
思春期真っ只中のキルシュの想い人であり、そんな彼に想いを寄せる私の可愛い親友アランシアの恋のライバル?となっている。
本人は無自覚なのがあれだか、俗に言う三角関係だ。
端から見れば面白い展開でもあるのだが、残念ながらキャンディの想い人はガナッシュだ。
そして最近のキャンディはいつもテンション高く、ガナッシュ以外見えてないって感じ。
この前、彼と一緒に帰っただけでも色々と問い詰められて凄かった。
「オイラ、落第はできないっぴ!!落第なんてしたら、もうこの学校には通えないっぴ!! オイラ強くなりたいっぴ!!キルシュやアリアにも勝てるようになりたいっぴ!!」
「キルシュは良くても、私は無理だね」
「ぴ…orz」
ピーちゃん落ち込んじゃった。
「ん~じゃあこうしない?これからキャンプへ行くでしょ?そこで、めいっぱい魔法を鍛える!そんでガナッシュに勝てるようになるまで帰ってこない!!」
ワォ☆
それなんて無理ゲー?
「そんなの無理だっぴ!」
「目標があるのはいいけど、せめてキルシュにしとけ」
「ほんそれなー」
「なんでだよ!!」
めっちゃ分かるわ。
ガナッシュと戦って勝つとか、ピーちゃんの場合詰んでしまう。
「さーてと」
「アリア、どこ行くの?」
「キャンプの準備。行く気無かったからさ」
「早くしなよ。バス乗り遅れないように」
「ほいよ。じゃあ後でね~」