1章
夢小説設定
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決断を迫られアリアは村に戻ることにした。
ミルフィーユを追って来た道を辿って、再びトルーナ村に戻ったのだ。
その間に起こった出来事を知らずに……。
最初目の前にある光景を見た時。
何が起きていたのか分からなかった。
予想だにしていなかったことが現実となっていたからだ。
「しっかりして!!ティラミス!!一体、どこでこんな酷い怪我をッ………!?」
目に映るのは、先程対峙していたはずのティラミィスの変わり果てた姿だった。
「どうしたんだ!!この傷は!!」
「へへッ……しくじっちまった……。遺跡から足を滑らせ……ウグッ!!」
それは嘘だ。
少なくとも遺跡から足を滑らせて、こんな外傷になるはずがない。
他者から危害を加えられたような……魔法で出来る傷にも似て…………魔法?まさか。
「こんな傷……見たことない………遺跡から落ちた傷じゃないわ……」
「早く、オレのハートを取り出して……弟に……」
意識が混濁しているのか、必死にミルフィーユに懇願するティラミス。
「もうしゃべらないで!!早く手当てしなきゃ!!」
「弟を…………キミに会わせたい……早く………オレのハートを……弟に………たの……む…」
「ティラミス!!死んじゃダメ!!ハートなんてないのよ!!取り出せないものなの!!」
「ミルフィーユ…………嬉しい………キミがいて…………キミに会えて………… オレの………気持ち…………ハート………弟に………」
ティラミスは最期にそう言って、二度と動かなかった。
「…………」
ティラミスの外傷からして、自分自身を追い込んだところもあるにはある。
だがそれ以前に、他者に危害を受けて出来る外傷も見受けられた。
私の予想が正しければ……いや、でも。
出来たら当たって欲しくはない。
当たって欲しくないのに。
「ヤツの具合はどうだった?」
外に出ると君がいて。
思った以上に胸の辺りがとてもザワザワする。
「……ガナッシュ………………まさか、オマエがやったのか?」
辛うじて問いかけるキルシュの声も掠れていて、心無しか震えている。
「いい薬になっただろう。あれで2、3日でもミルフィーユに介抱されれば、ハートってものもわかるだろう」
そう言うとアランシアは、途端に泣きそうな顔を浮かべる。
「ガナッシュ……知らないの?」
「え……?知らないって……???」
ワケが分からないといった顔のガナッシュに、アランシアは今にも泣きそうになりながら事実を言わんとするが、言葉が出てこない。
「死んだっぴ……。ティラミスは死んだっぴ…………!」
「そんな……!!まさか……!!」
悲痛な叫びのようにピスタチオが意を決して伝えれば、ガナッシュは信じられないと言わんばかりにアリアを見る。
「………本当だよ。ティラミスは死んだ……たった今。私達の目の前で」
その言葉は少なからず、君を傷付けたに違いない。
でもそれが真実なんだ。
「そんな……ッ」
「ガナッシュ」
「命に関わるような傷じゃない……!!そんな深手は負わせていない………!!」
「待って!待ってガナッシュ!!」
走り去るガナッシュを、アリアは全力で追いかける。
追い付けなくなるかもと焦る心を抑えて走る。
ようやくガナッシュの腕を掴むことが出来たのは、遺跡の出口までもう少しのところだった。
「待って……っ……お願い、待って……」
「離してくれ」
「手加減は、していたのでしょう」
「聞こえなかったか。離してくれ」
「ちゃんと言わなきゃ……言ってくれなきゃ。私は全部受け止めるから」
「…………」
「お願い。何があったの。それだけでもいい。教えて。そのあとで、ちゃんと君のお願いも聞くから」
離してしまえば行ってしまうだろうし、離さなくても振りほどかれしまうのは分かっている。
だからせめて。一時だけでいい。
必死に掴んだその腕にすがりつく。
少しの沈黙のあと。
ガナッシュは淡々と教えてくれた。
私達が戻ることを予想して、先回りしてティラミスを説得しようと試みたこと。
その経過で魔法を使うこととなり、ミジョテーを使ってティラミスに傷を負わせたこと。
そして一連の流れを見届けた私達を待っていたこと。
「そう……だったのね。ありがとう。話してくれて」
「……責めないのか?」
「どうして?あなたがティラミスを殺そうとしていたわけではないのに?私はただ真実を知りたかった。ガナッシュを信じるために」
そう言えばガナッシュは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに泣きそうな優しい笑みを浮かべた。
「眩しいな」
「え?」
「眩しいよ。アリアは。初めて会った時からそうだった…」
「ガナッシュ……」
「俺を信じてくれてありがとう。でも今は……アリアといるのは辛い」
そう言ってガナッシュは、自分の腕を掴むアリアの手を見る。
手を離せということなのだろう。
無理矢理離さない辺りに、彼の優しさが垣間見えて、一層胸の辺りが苦しくなる。
「ーー分かった。ならせめて。
我が誓約の光。主が御魂、守り尽くさん」
ガナッシュを包むように淡い光が現れると、溶けるように彼の中へと消えていく。
それを見届けて、アリアは静かに手を離す。
「これは祈り。貴方を想う私の祈り」
せめてあなたの行く末に幸せがあるように。
「またどこかで……会いましょう」
さよならは決して言わずに、なるべく笑みを浮かべてガナッシュの背を見送る。
ティラミスは恐らく自分のハートを取り出そうとして傷を広げた結果、死んでしまった。
そのきっかけとはなったのは、紛れもなくガナッシュで。
直接の原因では無いとしても、間接的に殺したと言う事にもなる。だから罪の意識も……。
思考と思考を折り重ねながら、遺跡の出口付近でキルシュ達を待っていると、ほどなくして合流する。
控えめながらガナッシュのことを聞かれたが、引き留めることが出来なかったのもあり、追い付けなかったと嘘をついた。
「ガナッシュはウソはついていないと思う。きっと、ちゃんと手加減してるハズよ……」
「ガナッシュのミジョテーをくらって、パニックになって自分の胸からハートを取り出そうとしたんだっぴ……。ガナッシュのせいとも、そうでないとも言い切れないっぴ」
「そうだな……アイツ、ヤケをおこすようなヤツじゃないけど、放っておくわけにも行かないな」
ガナッシュを責める者が誰一人おらず、心底安堵する。
勿論。放ってはおくつもりなんてない。
ガナッシュだって、私にとって大切な人だから。
「みんな行こう。この先へ……」