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神に拾われる話⑩
2026/01/02 20:25神に拾われる話
木々の合間を抜けると、空気がふっと変わった。
澄んだ水音が耳に届く。
視界の先には、岩の間を縫うようにして流れる清らかな川があった。水面は淡く光を反射し、触れずとも冷たさと清浄さが伝わってくる。
「ここで、禊をしよう」
銀色の人はそう言って、了を川辺へ導いた。
躊躇いながらも、了は水の中へと足を踏み入れる。
ひやりとした感触が、穢れに侵された皮膚を包み込んだ。
次の瞬間――
胸の奥に溜まっていた重苦しいものが、じわりと溶け出す感覚があった。
「……っ……」
思わず、息を呑む。
水は、ただ冷たいだけではなかった。
触れるたび、身体にまとわりついていた不快な重みを、少しずつ洗い流していく。
腕、脚、首元。
穢れが染み込んでいた場所ほど、水は強く反応する。
皮膚の上を蠢いていた斑点模様が、まるで霧が晴れるように薄れていき、やがて完全に消えた。
どす黒く変色していた肌の色も、わずかではあるが、確かに元の色を取り戻し始めている。
「……すごい……」
了の声は、かすれていた。
銀色の人は、川のほとりで静かに見守りながら言った。
「こうして毎日、身を清めていけばいい。
いずれ、その穢れは完全に落ちるだろう」
穏やかな声だった。
「穢れが落ちれば、記憶も自ずと蘇る」
その言葉に、了の胸が、きゅっと締めつけられた。
――思い出せる。
――家族のことも、自分の名前も。
希望のようなものが、確かに灯った。
「……はい……」
小さく、だが確かな返事をする。
川から上がった途端、ふっと全身の力が抜けた。
緊張が解け、疲労が一気に押し寄せる。
「……あ……」
膝が折れ、その場に崩れ落ちそうになる。
次の瞬間、了の身体はやさしく抱きとめられていた。
銀色の人の腕だった。
「……よく頑張った」
その声は、これまでよりも少しだけ低く、温かかった。
「もう、休もう」
抱き上げられた身体は、不思議なほど軽く感じた。
穢れが完全に落ちたわけではない。だが、確実に“守られている”という感覚があった。
木々の間を進む揺れが、心地よい。
川の音が遠ざかり、風の音だけが残る。
了は、銀色の人の胸元に顔を埋めるような形になり、ゆっくりと目を閉じた。
――大丈夫だ。
そう思えたのは、いつぶりだろうか。
意識が、柔らかな闇へと沈んでいく。
恐怖も、不安も、今はない。
そのまま、了は深い眠りに落ちた。
銀色の神域の中で、
彼は初めて、安心して眠ることを許されたのだった。
澄んだ水音が耳に届く。
視界の先には、岩の間を縫うようにして流れる清らかな川があった。水面は淡く光を反射し、触れずとも冷たさと清浄さが伝わってくる。
「ここで、禊をしよう」
銀色の人はそう言って、了を川辺へ導いた。
躊躇いながらも、了は水の中へと足を踏み入れる。
ひやりとした感触が、穢れに侵された皮膚を包み込んだ。
次の瞬間――
胸の奥に溜まっていた重苦しいものが、じわりと溶け出す感覚があった。
「……っ……」
思わず、息を呑む。
水は、ただ冷たいだけではなかった。
触れるたび、身体にまとわりついていた不快な重みを、少しずつ洗い流していく。
腕、脚、首元。
穢れが染み込んでいた場所ほど、水は強く反応する。
皮膚の上を蠢いていた斑点模様が、まるで霧が晴れるように薄れていき、やがて完全に消えた。
どす黒く変色していた肌の色も、わずかではあるが、確かに元の色を取り戻し始めている。
「……すごい……」
了の声は、かすれていた。
銀色の人は、川のほとりで静かに見守りながら言った。
「こうして毎日、身を清めていけばいい。
いずれ、その穢れは完全に落ちるだろう」
穏やかな声だった。
「穢れが落ちれば、記憶も自ずと蘇る」
その言葉に、了の胸が、きゅっと締めつけられた。
――思い出せる。
――家族のことも、自分の名前も。
希望のようなものが、確かに灯った。
「……はい……」
小さく、だが確かな返事をする。
川から上がった途端、ふっと全身の力が抜けた。
緊張が解け、疲労が一気に押し寄せる。
「……あ……」
膝が折れ、その場に崩れ落ちそうになる。
次の瞬間、了の身体はやさしく抱きとめられていた。
銀色の人の腕だった。
「……よく頑張った」
その声は、これまでよりも少しだけ低く、温かかった。
「もう、休もう」
抱き上げられた身体は、不思議なほど軽く感じた。
穢れが完全に落ちたわけではない。だが、確実に“守られている”という感覚があった。
木々の間を進む揺れが、心地よい。
川の音が遠ざかり、風の音だけが残る。
了は、銀色の人の胸元に顔を埋めるような形になり、ゆっくりと目を閉じた。
――大丈夫だ。
そう思えたのは、いつぶりだろうか。
意識が、柔らかな闇へと沈んでいく。
恐怖も、不安も、今はない。
そのまま、了は深い眠りに落ちた。
銀色の神域の中で、
彼は初めて、安心して眠ることを許されたのだった。