少女と黒騎士の亡霊


 ある王国の騎士たちが凱旋の途についていた。任務は見事に成功を果たし、皆誇らしげな面持ちで王都の門を目指していた。
 しかし、そんな彼らに災厄が降りかかる。

 それは邪悪な力を有する魔女、モルウィナ。
 彼女はその凶悪な魔術によって部隊を強襲した。騎士たちは応戦したが魔女の力の前ではなす術もなく命を刈り取られていった。

 ただ一人を除いて。

 それは、陽光のような金の髪に、蒼穹の瞳を宿した若き騎士、シリル。 
 仲間たちの死を目の当たりにし、彼もまた死を覚悟したが、それに反して魔女は彼を生きて捕え、自身の根城としている森の奥の古塔へと連れ去ったのである。

 そう、彼女の目的はシリルだった。

 その美しい姿をモルウィナは一目で気に入り、彼を手中に収めるために凶行に及んだのだ。

 囚われたシリルは魔女に呪いをかけられた。胸元に刻まれた刻印はまるで焼け爛れるような痛みと共に、徐々にシリルの心も記憶も蝕んだ。自分が自分ではなくなっていく、その恐怖は想像を絶するものだった。
 鎖に繋がれ、呪いに身を焦がされながら彼は抵抗し続けたが、それも長く続くことはなかった。

 やがて呪いは彼の心を闇に封じ、誇り高き騎士は魔女に従うだけの人形へと成り果てた。

「あなたに素敵な名前を与えましょう。あなたは今日からノクスよ。いかなる時もあたしの剣となり盾となりなさい。わかったわね、ノクス?」
「……はい、モルウィナ様……」

 彼は本来の名前すら奪われ、彼の白銀の鎧は魔女の呪いが染み込み、漆黒色へと変貌した。
 記憶も心も意思すらも闇に閉ざされ、シリルーー否、ノクスは魔女に跪いて忠誠を誓い、その手に口付けを捧げたのだった。





 王国は部隊の壊滅を知るやすぐに調査に乗り出したが、遺体のないシリルも戦死として処理されてしまった。
 遺体に残る痕跡から彼らを襲ったのは悪名高き魔女モルウィナであると推測された。

 魔女モルウィナ。彼女の名は広く知れ渡っている。
 冷酷かつ残忍で、ひどく奔放な彼女は気まぐれで集落を滅ぼすという噂さえあった。その真偽は定かではないが、あまりに強大な力を持つために討伐もままならず、また、各地を転々としており、その足取りを追うことも困難という厄介な存在であった。

 魔女の戯れで部隊が全滅させられた。国は黙って見過ごすわけにはいかず、速やかに討伐隊を編成し、魔女の棲家を見つけ出し抹殺せよと命じた。

 その討伐隊の一員に、ただ一人シリルの死を信じない者がいた。

 彼の名はオルテ。シリルの親友だった。
 共に剣の腕を磨き、背を預け合えるかけがえのない存在だった。

 彼だけは、遺体が見つかっていないシリルの死を信じず、必ず魔女の手から救い出すと心に固く誓っていた。


 親友の手で、その身が切り裂かれることも知らず。


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