chocolat
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次にヒロインが訪れたのはリュウガの部屋だった。
コンコン
ヒロイン
「船長~? ヒロインです!」
この時間になると、リュウガはほろ酔いで
ノックをしても返事を返してくれない事が多い。
その為、ヒロインは少し大きな声で呼びかけたが
やはり返事は返ってこなかった。
ヒロイン
「……開けますよ?」
そう言って、そっとドアを開けると
予想通り、リュウガは音楽をかけながら
優雅にロッキンチェアに座り、酒を飲んでいた。
ヒロインはリュウガの傍に行き、もう一度声を掛けた。
ヒロイン
「船長!」
リュウガ
「んぉ!! 何だよ脅かすなよ!」
リュウガは驚いて目を見開き、ヒロインを見上げた。
ヒロイン
「ノックもしましたし、何度も呼んだんですよ?」
リュウガ
「悪りぃな… 随分と聞き入っちまったみてぇだな…」
そう言って、リュウガは音楽のボリュームを絞った。
ヒロイン
「…最近、この曲よく聴いてますね?」
リュウガの部屋の前を通る時、微かに聞こえる音楽に
いつも耳をすませていた。
リュウガ
「あぁ、いい曲だろ?
この作曲家、いわくつきな男でよ?」
ヒロイン
「え…?」
リュウガ
「何でも、楽譜にお宝の暗号を隠したと言われてるんだが
今まで誰一人として、その楽譜を解読できたヤツはいない。
オレも楽譜なんて読めもしねぇが、こうやって何度も聴いている内に
曲自体が好きになっちまってよ?」
リュウガはまた酒をあおりながら、優しく笑った。
ヒロイン
「そうなんですか…
でもとってもいい曲…」
聴いているだけで、うっとりとするような
心地よい気持ちにさせてくれる。
柔らかな音色の木管楽器と、弦楽器…
それから時折強い音を弾く、鍵盤楽器。
ヒロインも音楽には疎いが、気持ちのいい音楽には間違いない。
一緒に聴き入っていると
気付いたかのように、リュウガが話し掛けてきた。
リュウガ
「…そういやお前、何しにきたんだ?」
ヒロイン
「あっ!そうでした!!
船長に日頃の感謝の気持ちを込めて…」
そう言って、小さな箱と
ポットを差し出してきた。
リュウガ
「ん? 何だ?」
ヒロイン
「バレンタインのチョコです!
オヤツの時も食べてもらいましたけど
これは船長だけの分です」
そう言って、ニッコリ微笑むヒロイン。
リュウガは嬉しそうに笑った。
リュウガ
「おぉ!今年は豪勢だなっ!
開けてもいいのか? …このポットは何だ?」
ヒロイン
「あっはい!
まずはこのポットの方を…」
ヒロインは持ってきたマグカップを取り出すと
ポットに入っているホットチョコを注いだ。
酒の匂いしかしなかった部屋に
ホンワリと甘く、優しい香りが漂う。
リュウガ
「おっ! 美味そうだな!!」
ヒロイン
「ミルクに合うチョコを溶かしたんです♪
あとシナモンのスティックもあるので
入れると、また味が変わって美味しいですよ?」
リュウガの手から、酒の入ったグラスを取り
ホットチョコを渡す。
リュウガ
「…で? この箱は?」
ヒロイン
「これはストックです!
そのまま食べてもいいし、ミルクに入れて溶かせば
またホットチョコが出来ます♪
…だから、少しはお酒控えて下さいね?」
そう言って、ヒロインは酒の入ったグラスと
ボトルをリュウガから遠ざけた。
リュウガ
「…そういう事か…
ま、今日はヒロインの言う通り、大人しく酒を飲むのはやめるとするかな」
ヒロイン
「はい♪ そうしてください!
少しお酒を抜かないと、体を悪くしちゃいますよ?」
メンバー全員に言われた事のあるセリフだが、
ヒロインに言われると、何だか余計嬉しく思えてしまう。
ヒロイン
「それじゃあ…」
リュウガ
「なんだ、もう行っちまうのか?」
ヒロイン
「……え…?」
いつもはそんな事を言わないのに、突然話掛けたリュウガの声は
何だか寂しそうに聞こえた。
(…少しだけ…いいかな…)
まだチョコを渡せていないハヤテと、部屋で待っているナギの事が気になったが
ヒロインはリュウガの近くにある椅子に腰かけた。
リュウガ
「ふっ…随分素直だな?」
ヒロイン
「…音楽がいいので…終わるまで居ます」
その答えに、リュウガは「ふっ」と微笑んだ。
しっかり警戒心を抱いているヒロインが
何とも可愛く思えた。
この曲が終わるまでという事は、もう数分しか一緒に居られないという事だ。
リュウガはこの貴重な時間をどう過ごそうか
目を閉じながら、和やかな空気に身を任せ
思いを巡らせていた。
すると、ヒロインの方から話し掛けてきた。
ヒロイン
「…そう言えば、船長って思い出に残るバレンタインって
あるんですか?」
リュウガ
「あ?」
リュウガはロッキンチェアから身を起こし
ヒロインの方へと向き直った。
ヒロイン
「船長って、どの港に行っても女の人に囲まれてるし
どんなバレンタインを過ごしたのかなぁって…」
興味深々で身を乗り出すヒロイン。
リュウガ
「そうだなぁ…」
顎鬚を摩りながら、色々な思い出を呼び起こす。
その中でも、最高に印象深かった思い出が
パッと頭に浮かんだ。
リュウガ
「オレが若い頃会った女でな?
まぁそうだなぁ…お前の生まれた国では女が男にチョコを渡すのが主流だが
外の国では男から渡す事が多いんだ」
ヒロイン
「!! そうなんですか!?」
リュウガ
「あぁ、だからオレも海賊船に乗ってはいたが
着いた港に、いい女がいてよぉ。
ちょうどバレンタインだし、女が喜びそうなチョコを手に持って
口説きに行ったんだ」
ヒロインは目を輝かせながら、う「うんうん」と頷く。
リュウガ
「案の上、女はチョコとオレの魅力にメロメロになってよ?
その日の内にヤッちまえた訳だ」
ヒロイン
「………」
どれだけロマンチックな話を聞けるのかと思ったが
こういう人だという事を忘れていた…。
ヒロインは思いっ切り、引いた表情でリュウガを見つめた。
ヒロイン
「あの…そういう話じゃなくて…」
リュウガ
「バッカヤロウ! これからが面白いんじゃねぇか!!」
ヒロイン
「!」
椅子を立とうとしたが、リュウガの剣幕に押され
もう一度座り直す。
それを見届けると、リュウガは話を続ける。
リュウガ
「でな? その女、抱いてる内に段々エロくなってってよ?
終いにはどうしたと思う?」
ヒロイン
「………」
ヒロインは思った。
どうか座り直した事を後悔させないで欲しいと…。
リュウガ
「すげぇんだよ!
オレのあげたチョコを溶かしてな?
それを胸とか腹とか体中に塗りたくってよぉ!
それをオレに食わす… ってオイ!ヒロイン!!」
ヒロイン
「…船長オヤスミなさい…
私のチョコはそんな事しないで食べて下さいね…?」
リュウガ
「ヒロインっ!」
そう呼び掛けたが、ドアは無情にもパタリとしまった。
リュウガ
「なんだよ…つまんねぇな…」
リュウガは顔をしかめ、ヒロインが淹れてくれたホットチョコを飲んだ。
柔らかな甘さが体を包み、リュウガは「はぁ…」とタメ息をついた。
癒されるとはこの事だろうと思った。
そして、自分の為に用意をしてくれているヒロインの姿を思い浮かべると
自然と笑みがこぼれた。
リュウガ
「お前を船に乗せて良かったよ…」
聞えるはずのないつぶやきは、ホットチョコレートの甘い湯気に消えて行った。
ヒロイン
「もぉ…無駄な時間だった…」
ヒロインは頬を膨らませながら、ドスドスと廊下を歩いていた。
ハヤテはもう部屋に戻っているかと思い、ハヤテの部屋を目指していると
廊下の奥から歩いてくるハヤテの姿を見つけた。
ヒロイン
「あっ!ハヤテさん♪」
ヒロインは廊下を駆け出し、ハヤテの元へと向かった。
当のハヤテは風呂上りで、タオルを肩に掛けながら
髪をガシガシ拭いている所だった。
ハヤテ
「ん? どうした?
あ…風呂待ってたか? お前最後だろ?」
ヒロイン
「違います! 渡したい物があって…」
ハヤテ
「?」
ヒロインは持っていたバスケットから
ハヤテに渡すチョコを取り出した。
ヒロイン
「バレンタインのチョコです♪
ハヤテさんはドライフルーツが好きなので
チョコ掛けにしたんです!」
ハヤテ
「お…おぅ…」
ヒロインの可愛い笑顔に押され
返事をしてみたのもも、何を言われたかさっぱり理解をしていなかった。
ハヤテは戸惑いながら、箱を開けると
そこにはマンゴーやパイン、バナナなど
乾燥させた果物に、程よくチョコが掛けられていた。
ハヤテ
「スッゲ! これお前が作ったの?」
ヒロイン
「はい! お勧めはコレです!
オレンジピール!!」
ハヤテは胸が高鳴って、テンションが上がった。
そしてオレンジピールのチョコを取ると
パクッと頬張った。
ハヤテ
「んっ! うまっ!!
お前コレ、マジで美味いぞ?!」
ヒロイン
「ふふっ良かったです♪
ハヤテさんだったら、絶対好きだろうなぁって…」
嬉しそうに微笑むヒロインを見て、ハヤテは心臓がドキッと跳ね
何だか顔が熱くなるのを感じた。
(オレが…絶対好きって…)
もちろんそこには恋愛感情なんて含まれてない事は分かっているのに
自分の事だけを考えて作ってくれたかと思うと
とてつもなく嬉しかった。
ヒロイン
「…ハヤテさん?」
ハヤテ
「あっ…ありがとな?
……それと…今日悪かったな…」
ヒロイン
「え?」
ハヤテ
「…昼間…
お前がこんな手の込んだ事してるなんて知らなくて…」
昼間のサンドイッチを大量につまみ食いされた事だろう。
ハヤテがこんな風に謝ってくるのは珍しい。
だが、ヒロインは申し訳なさそうに俯くハヤテを見て
ニッコリと笑った。
ヒロイン
「いえ…私も余裕がなくて、強く言ってごめんなさい…
…ハヤテさん、いつも構ってくれて…
ちゃんと気に掛けてくれて、困ってる時はいつも助けてくれてありがとうございます!
これからもよろしくです♪」
ハヤテ
「!!」
思い掛けないヒロインの言葉に、ハヤテはまた抱きしめたい衝動に駆られた。
こんなに可愛い事を自然に言ってくるなんて
反則だ。
ナギにあれだけ怒られたというのに、一体いつになったら
自制心が利いて、こういう言葉も流して聞けるようになるのだろう…。
目の前にいるヒロインは、無防備に微笑んでいる。
ハヤテはゴクリと喉を鳴らした。
今手を伸ばせば、抱き寄せる事も
キスをする事も簡単に出来る。
心臓はさっきよりもバクバクと激しく音を立てる。
ハヤテ
「ヒロイン…」
そう名を呼んだと同時に、ヒロインは何かに気付いたかのように
ハッと顔を上げた。
ヒロイン
「あっ! ハヤテさんに借りてた本返そうと思ってたのに!」
ヒロインはそう言って慌てて部屋の方へと振り返る。
しかしハヤテはヒロインの手をグッと掴んだ。
ヒロイン
「え…?」
ハヤテ
「…いいよ…別に急いでねぇし…
明日でもいつでもいい…」
掴まれた手がやけに優しくて、ヒロインは何だか緊張した。
ヒロイン
「あ…じゃあ…またにします…
……そろそろお部屋戻りますね?」
スルリと掴んだ手が離れた。
ハヤテ
「っ! あ…あぁ…
サンキューな…コレ…」
ヒロイン
「い、いえ…
おやすみなさい…」
走り去るヒロインを見つめ、ハヤテはさっき掴んだ手の感触を
しっかりと握りしめた。
(…やっぱ好きだ…)
こんな特別な気持ちになるのは、ヒロインしかいない。
今年も「義理」と分かったチョコをもらい
タメ息のひとつでも漏らすところだが、
ハヤテの胸はまだ高鳴っていた。
こんな特別なチョコをもらったのは初めてだ。
ハヤテ
「ふっ…」
ハヤテは鼻歌交じりで、自分の部屋を目指した。