コトダマ
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ヒロインは驚いて目を丸くしていると、
顔を上げた父親の唇からは唾液がしたたり
目は血走り、視線はどこを捉えているか分からない。
そして狂ったようにデスクの引き出しを引っ張り出し
中身がこぼれ落ちるほど、掻きあさる。
ヒロイン
「ジョ…に、兄さん…」
ヒロインは恐怖すら感じる異常な行動に、思わずジョルジュの袖を掴んだ。
ジョルジュ
「…薬切れだ…
残念だが親父はもう薬物中毒者だ」
ジョルジュの言う通り、せわしく吸引用のパイプを組み立てると
マッチを手に持った。
しかしジョルジュはツカツカと父親の元へと向い
乱暴にパイプを取り上げ、バキッとへし折った。
父親
「お前っ!!」
ジョルジュ
「まだ過ちを犯すつもりか?
親父、今の顔見てみろ! クォーツ家の誇りも何もあったもんじゃねぇ!
まずは薬を抜いて、人間としての感情を取り戻せっ!」
そう言ったジョルジュの目は潤んでさえ見えた。
自分の父親が、ここまでの姿になっているのは
分かっていたとしても、とてもツライ。
しかし理性を失っている父親は、パイプを失った怒りが抑え切れず
またしても別の引き出しを探り、小型の銃をジョルジュに向けた。
ヒロイン
「っ!」
ジョルジュ
「親父…」
父親
「早く変わりのパイプ持ってこい!
裏の倉庫に代わりはいくらでもある!!
ついでに薬もだっ!」
ジョルジュは父親の目を見ながら
ゆっくりと後ずさる。
そしてヒロインを庇うように、
背中に隠した。
ジョルジュ
「…そうかよ。
薬は倉庫にあるんだな?」
父親
「そうだ! さっさとしろ!!
チッ、誰も使えねぇっ! コルトも協力しねぇし
ここで働いてるヤツはバカばっかりだ!
こんなに気持ちのいいモノはなのになっ!」
銃を向けられているにも関わらず、ジョルジュは安心した。
ここで働く従業員には、薬物の手が回っていなかった。
そして冷や汗を掻き、まるで見えない猛獣とでも戦っているかのような表情の父親に
ジョルジュはもう一度言った。
ジョルジュ
「…親父、もう終わりにしろ。
オレはパイプも薬も取りに行かない」
そう言うと、父親は口元をヒクつかせて
不気味な笑みを浮かべた。
父親
「ふっ…そうかよ…」
そう言って、銃の撃鉄をカチャリと引く。
ヒロインはハッとしてジョルジュを見たが
ジョルジュは悲しそうな表情のまま動こうとしない。
父親
「お前にはトコトンがっかりさせられた。
お前の事はガキん頃から大嫌いだったよ!
何でこんなヤツがオレの息子なんだってな?」
大きな声で笑い上げると、照準を合わすように銃を構えた。
ヒロイン
「!! やめてっ!!」
ヒロインは咄嗟にジョルジュの前に飛び出し
両手を広げてジョルジュを庇う。
ジョルジュ
「ヒロインっ何を!」
ヒロイン
「もうやめてください!!
ここで兄さんを撃っても無意味です!」
父親
「ちょうどいい。
まずはお前からにするか?
くだらねぇ遺言なんてお前を殺せばなかった事になるもんな?
がはははっ!!」
ジョルジュがヒロインを引き離そうと、体を掴むが
ヒロインは強く父親を見つめた。
ヒロイン
「…怖いんですね?」
父親
「あ?」
高笑いしていた父親が、思い切り反応した。
ヒロイン
「…兄さんが自分より優れているのを知っているから…
おじいさんに認められない自分が悔しくて、だから兄さんを追い出した…」
父親
「お前、何言ってる」
ヒロイン
「…あなたはあんなにも兄さんを愛していたのに…
それ以上に、おじいさんとおばあさんの愛情が欲しいばかりに
結果を見せようと、悪事に手を染めてしまった」
父親
「…何だ…?お前…」
ジョルジュは突然打ち合わせにもない言葉を言い出すヒロインに驚いた。
ヒロイン
「…おばあさんは言っていました。
あんなに慈悲深く、優しい子はいないと…
あなたの事を許してあげて欲しいといつも言ってました」
父親
「…黙れ…」
ヒロイン
「おじいさんもです。 家の掟に習ったまでで
自分には男の子しか生まれてこなかったからこんな事はなかったけど
捨てなければいけない状況なのに、あなたは最後まで抵抗したと」
ジョルジュ
「!!?」
ジョルジュは自分でも知らない話しをしているヒロインを茫然と眺めた。
そんな話聞いた事がない。
自分の記憶の中にある父親は、冷血で金の為なら
どんな事でもする貪欲な男だという事だけだ。
ボンヤリと思考がそちらに向いていると…
父親
「だ…黙れっ!!!」
父親の怒鳴り声と共に、銃声が響い
た。
ジョルジュ
「!? ヒロインっ!!?」
ハッとして自分の前にいるヒロインを見ると
ヨロッと体が揺れ、胸に背中がぶつかった。
ジョルジュ
「オイヒロイン!!」
その体をしっかりと抱き留める。
慌ててヒロインを見つめ、体中に視線を送ったが
胸や腹を撃たれた訳ではないようだ。
ホッとして優しく体を抱くと、左の腕辺りにヌルッとした感触が走る。
ジョルジュ
「!?」
ヒロイン
「だ…大丈夫です!
掠っただけですから…」
ジョルジュ
「ヒロイン、もういい!
もういいからっ!」
そう言って、ジョルジュはヒロインを諭すが
ヒロインの目はまだ強く光っていた。
ヒロイン
「…私を孤児院に送った後、あなたはおじいさんに手紙を送った。
…そこにはある『詩』が書かれていたんです」
父親はヒロインの真っ直ぐな目に怯え
銃を構えながらブルブル震えている。
ヒロイン
「『七つの子』… おばあさんの出身国では有名な歌で
親子の情愛を歌った詩です…
おじいさんはそれですぐに分かりました。
あなたが私を本当は手放したくなかった事…」
ジョルジュ
「っ!」
ヒロインが作り話をしているように思えないジョルジュは
ヒロインを抱えながら、父親を見る。
動揺して、さらに汗を掻き
怯えるように後退っている。
ヒロイン
「だけど、どうする事も出来なかった。
親族からの反感、受け継いだプレッシャー
そして私を産んでくれた母親から執拗に責められ
あなたは窮地に追い込まれた」
父親
「…な、何を言ってる…お前…何者だ…」
ヒロイン
「全ておじいさんとおばあさんから聞いた話です。
だからここに居るんです。
私を産んだ父親がどんな人なのか会いたかったから…」
父親はもはや言葉を失くし、パクパクと口を動かしていた。
ヒロイン
「あなたも…愛されていたんです。
おじいさんやおばあさんは、帆船業を繁栄させる事よりも
あなたの幸せを望んでいた…」
父親
「は…ははっ…
嘘をつけ! 一度も手助けなんかしなかったぞ?
オレは孤独だった。
誰もかれも無能な男だと蔑んで、まともに取り合うヤツはいなかった…」
ヒロイン
「…それはあなたが見ようとしなかったからです。
おじいさんもおばあさんも、いつだって手を差し伸べていた。
ここにいる兄さんも…」
父親は理性の利かない思考を巡らせ、過去の記憶を辿る。
『…無理しないでいいんだよ…』
『お前のしたいようにしろ。
困った時はいつでも頼りなさい』
その言葉がすぐに浮かんだが、父親には『頼りない男』への
憐みの言葉としてしか受け取れなかった。
ヒロイン
「…もうこんな事やめてください」
澄んだヒロインの瞳に、自分の姿が映り込み
心の中に懐かしい感情が湧く。
この目は、自分の母親の目だ。
ヤマト民の黒い瞳に、黒い髪。
そうだ、この女は母親を思い出させる。
自分と妻の血では、こんな子が生まれるはずがない。
だが、どこかで信じている自分がいる。
あの日捨てたあの子が、こんなにもいい子になって会いに来てくれた。
母親の面影を持って…。
父親
「…う…うぅ…」
ジョルジュ&ヒロイン
「「!?」」
父親の手元が緩み、銃を手放すかと思った。
一瞬見せた緩んだ表情に気を取られたその時だった。
パンッと乾いた音が響き、向けられた銃がヒロインの頭を狙う。
ヒロインはよける事も出来ず、スローモーションのように
銃弾の行方を眺めた。
そしてキンッという甲高い金属音と一緒に
またパンッという銃撃音が部屋に響いた。
そして目の前が真っ暗になり、強い衝撃を受け床に倒れ込んだ。
何が起こっているか分からずに、いきなり床に倒れたせいで
頭がクラクラした。
ジョルジュ
「ヒロインっ! 親父っ!!」
ジョルジュの慌てる声が遠くで聞こえる。
(何が…起こったの…?
私…撃たれたの…?)
頭を撃たれると、神経が麻痺して
痛みも感じないのだろうか…。
床に倒れ込んだのにも関わらず、痛みもなく
柔らかな感触にウットリと目を閉じた。
(あ~…ナギに抱かれてるみたい…
このまま逝くのだったら幸せ…)
そんな事を考えていると、右の頬に痛みが走る。
ヒロイン
「痛っ!」
ナギ
「ヒロインっ! しっかりしろっ!
意識をしっかり持て!!」
何度も手の平で、頬を叩かれ
ヒロインは思考がボンヤリと戻ってくる。
ヒロイン
「えっ…ナギ…?」
頬の痛みに目を開けると、不安げに眉をしかめるナギがそこにいた。
ナギは何故か船職人が着る様な作業服と、エプロンをしていて
ハンチング帽をかぶっていた。
ヒロイン
「ふっ…ナギ…ハンチング…似合うね…
バンダナもいいけど…こっちもいいな…」
ボンヤリとナギを見つめると、ナギはもう一度声を掛ける。
ナギ
「ヒロインっ!! 寝ぼけてんじゃねぇ!」
ヒロイン
「!?」
その声に意識がハッキリと戻り、ヒロインは何度か瞬きをして
ナギの目を見上げた。
ヒロイン
「あれ? ナギ??
わ、私…撃たれて… えっ???」
ゆっくりと体を起こし、部屋の中を見回すと
船大工姿のシリウスメンバーがそこにいて、父親の傍にはジョルジュとソウシが付き添っていた。
ソウシ
「トワ、この薬を飲ませて!
少し暴れるかもしれないから、ハヤテとシンも体をおさえてあげて!」
そう指示を出しながら、ソウシは慌てて駆け寄ってきてくれた。
ヒロイン
「ソウ…シ…さん?」
ソウシ
「全く毎度毎度ヒヤヒヤさせてくれるね…
腕見せて?」
そう言われ、腕を取られると
痛烈な痛みが走った。
ヒロイン
「っっ!!」
ソウシ
「結構出血してるね。
弾が掠っただけみただけど、傷が深いな…」
ヒロイン
「だ、大丈夫です…」
ナギ
「大丈夫じゃねぇだろっ!
ドクター、船に運ぶ!」
ソウシ
「そうだね! 船長、ジョルジュの父親の事は任せていいですか?
今飲ませている薬が利けば、禁断症状が落ち着くはずです」
リュウガ
「あぁ任せろ!
ヒロインの事、頼んだぞ?」
ソウシ
「はいっ! ナギ、行くよ!」
ソウシの掛け声と共に、体がフワッと浮いた。
ヒロイン
「あっ! ナギっあのっ!!」
ナギ
「うるせぇっ!! 大人しくしてろっ!!!」
ヒロイン
「っ!」
ただならぬナギの剣幕に、ヒロインは押し黙った。
また怒らせてしまった…。
ナギに抱かれているのにも関わらず
ヒロインの胸は苦しく締め付けられた。