コトダマ
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造船所の入り口に立つと、体がブルブル震え出した。
世界規模のシェアを持つクォーツ家の造船所とあって
予想はしていたが、こんなに立派な造りだとは思いもしなかった。
ジョルジュ
「…それじゃ入るぞ?」
その言葉に、ジョルジュを見上げると
ジョルジュの顔も緊張で強張っていた。
ヒロインは思わずジョルジュの腕を掴んだ。
ジョルジュ
「ん?」
ヒロイン
「あ…あの…ジョルジュさん、手を出してください!」
ジョルジュ
「手?」
突然何を言うのかと、ジョルジュは戸惑ったが
言われた通り手を出すと
右手の平に何か文字を指で書いてきた。
ヒロイン
「人…人…人…はい! ジョルジュさん飲み込んで!」
ジョルジュ
「!」
驚いたように目を見開くジョルジュ。
何をしているのか分からずに、困惑しているのだろうと思い
ヒロインはやり方を話す。
ヒロイン
「こうやって、パクッて飲み込むんです!」
ジョルジュ
「あ、あぁ…」
言われた通り、手の平を口に当てて飲み込んだフリをするジョルジュ。
ヒロイン
「コレ、私の生まれた街で緊張をほぐす為のおまじないとして
よくやってたんです。
私も出来る限り頑張ります! きっと上手くいきます!!」
ヒロインの目は、また何かを決意した強い目をしていた。
ジョルジュは手の平をもう一度見つめ、ニッコリ笑って顔を上げた。
ジョルジュ
「行くぞ!」
ヒロイン
「はい!」
そう言って、ジョルジュがドアを開けて
造船所に入ると、好奇の目で迎えられる。
ジョルジュがここを出てから3年近く経つ。
ここで働く者の中でも、ジョルジュを知らない者も多い。
ヒロインもその視線を浴び、かなり怯えたが
平静を装って、ジョルジュと歩く。
???
「ジョルジュ? オイ!ジョルジュか?」
そう声を掛けて来たのは、初老の男性で
エプロンに木屑をいっぱいつけて現れた。
ジョルジュ
「コルトのじいさん!!
元気だったかぁ~?」
そう言って2人は嬉しそうに抱き合う。
コルトとは、確かジョルジュの祖父が帆船業を始めるにあたって
一緒に築き上げた人物。
そして親友だ。
ヒロインは深い皺と優しい瞳をしたコルトを温かい目で見つめた。
するとコルトの視線がヒロインを捉えた。
コルト
「こちらの美人さんは誰だ?
ジョルジュの嫁か?」
ジョルジュ
「違うよじいさん! ちょっと親父に用があってな?」
コルトはそれだけで分かったのだろう。
何年も船を造り上げてきた、皮の厚くなった手が
ギュッとジョルジュの手を包んだ。
コルト
「止められるのはお前しかいねぇ。
どうか頼む……」
泣きそうになりながら、何度も何度も頭を下げるコルト。
ジョルジュの祖父、サルマ亡き後
この造船所に残り、現当主のジョルジュの父を支えてきたのだろ。
そして悪事を働いていることも知っているようだ。
ジョルジュ
「…待たせて悪かったな…
オレがちゃんと片を付けるから…」
そう言って寂しそうに笑うと、父親の居場所を聞き
ジョルジュとヒロインは2階にある父親の部屋を目指す。
ジョルジュ
「…ヒロイン、オレが話を振るまで黙ってろ?
親父に何聞かれても答えなくていい」
ヒロイン
「はい…」
小さな声で打ち合わせをし、ヒロインはドキドキと音を立てる胸に
そっと手を当てた。
一体ジョルジュの父親とはどんな人物なのだろう。
ジョルジュがドアをノックすると、低い男の声が答えた。
父親
『…誰だ?』
ドアを開けて中に入ると、大きな机の上に
乱雑に置かれた書類の山に埋もれながら
タバコを咥え俯いている父親が目に入った。
父親の視線は、ずっと書類に向けられたままで
来客の存在に気付いていながらも
鬱陶しそうに声を上げる。
父親
「…忙しいんだ。 さっさと要件を言え」
相変わらずな父親の態度に、ジョルジュはガシガシと頭を掻いて
タメ息をついた。
ジョルジュ
「はぁ…相変わらずだな親父…」
父親
「!」
その声を聞いた途端、ピタリと動きを止めた父親は
ゆっくりと顔を上げた。
視線がジョルジュを捉えると、不機嫌な表情に変わる。
父親
「…何しに来た。
お前はこの敷居を跨げないはずだが…」
ジョルジュ
「…まだそんな事言ってんのかよ…
いい加減、その石頭どうにかした方がいいぞ?」
そう言うと、父親は鼻を「ふん」と鳴らし
何もなかったかのように、視線をまた書類に移し
仕事を続ける。
ヒロインはこの状況がサッパリ理解出来ず、
戸惑っていた。
久しぶりに会う父と子の再会がこんな物とは想像しなかったからだ。
すると、ジョルジュは机の前まで歩き
バンッと両手を机についた。
父親
「…何だ…」
睨み上げてくる父親に、ジョルジュはニヤリと笑い掛ける。
ジョルジュ
「親父、そろそろこの場所から降りてくれねぇか?」
父親
「あ?」
ジョルジュ
「じいちゃんが作り上げたこの場所を、汚ねぇやり方でのし上るのはやめろって事だ」
ジョルジュが啖呵を切ると、父親もニヤリと笑う。
父親
「勝手に出て行った野郎が、随分と偉そうな事言うもんだ…
お前の居場所なんかとっくにねぇぞ?」
不快な笑い声を立てる父親に、ジョルジュはまたタメ息をつく。
ジョルジュ
「はぁ…ったくしょうがねぇなぁ…
ヒロイン!」
ヒロイン
「!!」
ジョルジュに声を掛けられ、ビクッと肩が上がった。
父親は怪訝そうに上から下まで、舐め回すように見つめてくる。
父親
「誰だその女…」
ジョルジュ
「やだねぇ…自分の娘も忘れちゃうなんて…」
父親
「娘?」
ジョルジュ
「そうだよ。
アンタが捨てたオレの妹。
じいちゃんが引き取ってこっそり育ててたんだ」
すると父親の視線がさらに鋭くなり、ヒロインの緊張感はピークに達した。
しかし父親は、驚く訳でもなく
笑い出した。
父親
「クッ…がはははっ!
どこから連れてきたんだその女?
風の噂で聞いたぞ? お前が娼館に入り浸ってるって!
オイ、そこの女! いくらで雇われた?」
ヒロイン
「………」
ヒロインは負けずに、ジッと父親を見つめた。
ジョルジュ
「まぁ…無理もねぇか…
正真正銘アンタの娘だよ。 じいさんがオレだけに教えてくれた」
父親
「……嘘をつけ。
あの子は孤児院に置いてきた。
父さんが知るはずもない場所だ」
父親の目が少しだけ動揺を見せる。
ジョルジュ
「だけど、じいちゃんは人を使って探し出した。」
そう言うと、ジョルジュはゆっくりと父親のいる机から
ヒロインのいる場所まで戻り
隣に立った。
ジョルジュ
「疑うなら、納得出来るまで何でも聞いてみな」
すると父親は、ヒロインを鋭く見つめ
家族にしか分からなような事を聞いてくる。
ヒロインはジョルジュに教わった通り、答えた。
そして問題なく、全てを答え終えると
父親は呆れた声で笑い出す。
父親
「ふははっ…随分仕込んだな?
まぁそんなの誰でも答えられる…。
それに…何だその名前、随分と異国の名前のようだな…」
ヒロイン
「…おじいさんがつけてくれました。」
ジョルジュは内心焦っていた。
ここまでの打ち合わせをしていなかったからだ。
ヒロインの名前をそのまま使っても、気にも留めないと思っていた。
父親
「…それに…その顔立ち…
オレの娘とは思えん」
ジョルジュ
「…小さい頃の記憶しかねぇクセに、随分と疑うな?」
父親
「……とにかく、何しに来た?」
ジョルジュ
「だから言ったろ?
親父には足洗って、ここを譲り受けさせてもらうって」
父親
「…お前にそんな権利はない」
ジョルジュ
「あぁ…そう言うかと思って、だからヒロインを連れてきた。
ヒロインはじいちゃんから、遺言を預かっている」
父親
「遺言?」
ヒロイン
「おじいさんの死後、万一経営が悪化、もしくは悪事を働いた場合
全ての権利を兄さんに渡すということです」
これは祖父サルマからの本当の遺言ではなく
ジョルジュとヒロインとの間で決めた、嘘の内容だった。
父親
「…随分と都合のいい遺言だな?
だが、証拠はどこにある?
この女が娘って事も、その遺言が本物って事も…
キッチリ証拠を見せてもらおうか?」
ここまではジョルジュと話した通りの手筈だ。
これからが本番だ。
どこまで父親を信じさせるか。
ヒロインは固唾を飲んだ。
ジョルジュ
「まずはコイツがオレの妹で、アンタの娘だと分ればいいんだよな?」
そう言って、ジョルジュはズボンのポケットから
古びた紙を取り出した。
父親
「…何だこれは…」
ジョルジュ
「ヒロインを預けた孤児院の証明書だよ。
ほらここ! 親父が預けてひと月もしない内に
じいちゃんが受取人になってる」
そこにはヒロインが入所して、引き取られた月日が書かれていた。
父親は見覚えのある孤児院の名前と、サルマの直筆のサインを見て
書類自体は納得したようだ。
父親
「…父さんも物好きだな…
女の子供は、不吉だと代々決まって捨てていたのに…」
父親のあまりにも冷たい言い方に、本人ではないのに
ヒロインは胸が物凄く痛んだ。
本当の妹は、どんな気持ちだったのだろう。
望まれずして産まれた子として、ずっと心に傷を負っていたのではないだろうか…。
悲しみが襲い、ヒロインはグッと眉をしかめた。
ジョルジュ
「じいちゃんがヒロインを育てていたのは本当だ。
じいちゃんがまだ元気な頃、ヒロインにいつも言っていたそうだ。
そしてオレが継ぐ為の費用を、ある場所に隠したと」
父親
「費用?! 財産を隠していたというのか?!
この親不孝者!
さっさとそれを渡せ!」
金の存在が明らかになり、父親の態度がさらに荒々しくなった。
それはヒロインの目から見ても、あまりにも異常で
不安になりジョルジュを見つめた。
ジョルジュ
「まーだ見つけてもねぇよ。
でもじいちゃんからの隠し場所はココに入ってる。」
そう言って、トントンと右のこめかみ辺りを人差し指で叩く。
ジョルジュ
「どうする親父、金はくれてやってもいい。
だが、今いる座から降りてくれ。
親父のしている事は、船の為じゃねぇ。
自分の欲の為に金を稼いでいる、ただの金の亡者だ」
ジョルジュが強くそう言うと、父親はギュッと強く目を閉じ
眉をしかめながら、言葉を探す。
父親
「…その女の…証明はどうした?
金…金の場所はお前も知ってるのか?」
ヒロイン
「…おじいさんはお金の場所は教えてくれませんでした。
でも私が小さい頃、おばあさんから教わった異国の言葉を
いつか兄さんと会う時が来たら教えてあげなさいと言われました」
これもジョルジュが作った嘘の話だ。
父親
「…ばあさん…?」
またしても父親の様子がおかしい。
こめかみに数本の青筋を立て、ピクピクと脈を打っているのがこの距離でも分かる。
ジョルジュ
「親父の母さん…ばあちゃんの事だよ。
親父のこんな姿、ばあちゃんが見たら泣いただろうよ…」
ジョルジュは何故か余裕の笑みを浮かべている。
ヒロインは不安になり、父親から目が離せない。
父親
「……さい…」
ジョルジュ
「ばあちゃん言ってたろ?
金もうけの為に仕事をするなって、いくら上の立場にいても
下で支えてくれる人たちを大切にしろって…
今さっき作業場を見たけど、皆満足に賃金をもらえてそうには思えなかった…」
父親
「…黙れ…」
ジョルジュ
「ふっ…そろそろ限界か?」
ジョルジュがそう言った途端、父親が物凄い剣幕で怒鳴り上げた。
父親
「うるさい!!! 黙れっっっ!!!」
ヒロイン
「!!」